トムヤムくん

シングルマンのトムヤムくんのレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
4.4
クィア映画あるある「物語の途中で恋人が死ぬ」を逆手にとって、既に恋人が死んだ状態から物語が始まる。

恋人を亡くすっていうのは異性愛者でもかなり辛いものだけど、ただでさえ出会いが少なくて、本来の自分をさらけ出せる唯一の相手であろう特別な存在を失うって相当きついんじゃないかなって感じる。

その哀愁、喪失感を演じるコリン・ファースが本当に切なくて苦しい…。『英国王のスピーチ』よりも前にこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞してもよかったと思った。

また彼の元カノであり、大切な親友のジュリアン・ムーアや、彼を気にかけてくれる教え子のニコラス・ホルトも愛おしい愛おしい。こんなにも大切にされているのに、常に頭の中には「死」がまとわりついていて、ことあるごとに亡くなった恋人を思い出してしまう姿に胸が痛かった。

トム・フォードは本作が監督デビュー作だけど、元々はファッションデザイナーということもあって、構図や世界観、色彩の変化がバチバチに決まっていて美しい。

別に自分は恋人を失ったわけでもないのに、コリン・ファースにすごく感情移入してしまい、そしてトム・フォードの描き出す世界に虜になってしまった。なぜかこの映画は心に空いた穴を埋めてくれたような気がして、少し救われた気持ちになった。