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シングルマンのmaiのレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
3.5
すごく不思議な作品でした。とともに、すごく耽美で品のある作品でもあって…。

ストーリーは濃厚な1日について淡々と追っていきつつ、要所要所でジムとジョージの思い出も振り返っていくスタイルです。

16年間連れ添ったジムの死から立ち直れないジョージは自殺を企て、後は拳銃の引き金を引くだけ…しかしどうしても実行できず、結局元恋人チャーリーとの約束を守ることにします。チャーリーと楽しんだのもつかの間、良き理解者であろうチャーリーにすら自分の抱える孤独や絶望を理解してもらえないのだと突きつけられたジョージは家へと戻ります。そして、ジムと出会ったバーへ…そこにジョージを追いかけている教え子のケニーが現れます。意気投合した2人は海へ自宅へと行きます。
彼との交流を通して自殺を思いとどまったジョージ…のはずが、心臓発作?で亡くなってしまいます。そんなときに彼の枕元に現れたのは、やっぱり恋人のジムでした。

なんというか…主人公のジョージの内に秘めた絶望や欲望が封じ込められていて、それが時折表情や言動に垣間見えるあたりが妙に生々しい(いい意味で)のと、コリン・ファースの色気が凄まじいのとで、ストーリー云々よりもその画面に溢れる圧倒的耽美な世界観にため息が出るくらいでした。
ストーリーとしては本当、淡々と進んでいく感じで、時々ユーモアを垣間見せたり、逆にコリン・ファース演じるジョージが対話相手と会話の駆け引きをしたり(これ結構多いのだけれど、いずれにしてもジョージの大人の男性の色気と経験にはみな負けます)…などがありますが、基本現実と過去を行ったり来たりして、朝から夜までの長い1日を描き切ることに徹しています。その中で、現在パートが色あせた感じで、過去パート(ジムとの大切な思い出ですね)が鮮やかな色合いの演出になってたのは凄く印象的でした…ジムの存在がそれほど大きかったことがわかる演出ですし、何よりそれが斜に構えたような鼻に付く演出ではないんです。凄く自然にその演出を行ってました。
そして自殺デーの重要人物として元恋人のチャーリーと教え子のケニーがいます。
チャーリーもすごく重要なカギを握っていて、というのも種類は違えど孤独を持ち合わせた同士なんです。ジョージの孤独が絶望感溢れてるのに対して、チャーリーは孤独を受け止めてポジティブな方向で捉えてる感じ…その対称性が2人きりのシーンで際立ちます。そんなチャーリーをジョージがどこか拠り所にしてるのも事実で…だからこそ、最後の「チャーリーへの遺書を燃やすシーン」は彼が過去を断ち切ろうとした印象的なシーンになるように思います。
そして、ケニー。ニコラス・ホルト目当てでこの映画を鑑賞したので、圧倒的耽美な世界観に完全なる美少年(少年という年齢でもないけれど…)が迷い込んでる感じがたまらなく美しかったです。ジョージが落ち着き払っているのに対して、ケニーは何としてでもジョージとプライベートな交流を持とうと必死なんです…そして、海に行ったり自宅に行ったりした時の臆せずジャージと向き合う感じ…ジョージの大人な対応もいいけれど、ケニーのようにどこか無鉄砲な感じの若者っぽい行動力も素敵です。ニコラス・ホルトの目がキラキラしてるように見えて、たしかに彼との交流を持てばジャージも心が上向くんじゃないかと感じました(実際、彼の心のうちとジョージのものとは似通った孤独感があって、それをケニーなら理解してくれるのではないか?とジョージも感じてるようでした)。

皮肉なことに自殺を辞める決意をした直後にジョージは心臓発作で死んでしまうんです…しかし何故かバッドエンドには感じないんです(もちろんハッピーエンドだとも思わないけれど)。
その理由を言葉にするのは難しいのですが…生を実感した満足感を持ち合わせたまま死ねるって別にバッドエンドではないなぁと思いました。起きたときに教授が死んでしまってるという(しかもやっとお近づきになれた教授)状況に出くわすケニーはかわいそうだけれど。

あと、彼らがゲイなのは言及されてるけれど、それを示す直接的なシーンがキスだけに留まってるのも映画の美しさに拍車をかけてるように思います。
全然あってもいいんだけれど、やっぱりそういうシーンがあると一気に生々しくなるから、最後の最後まで落ち着いた温かみのあるジムとジョージの関係性として描かれてるのが好きでした。

ストーリーの起伏はほとんどなくって、ストーリー展開のうまさを期待してこの映画を観ると肩透かしを食らったように思うけれど(実際、ストーリー的うまさはあまりないです)、それを凌ぐレベルの演出・キャストの美しさったらないです。美に溢れてる。
セリフのつなぎ方のオシャレさといい、色調調整といい、キャラクターの醸し出す種類の異なる色気といい…もう何から何まで耽美。その世界観だけで十二分に満足できました。
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