自分のセドリック・カーンへの信頼感はなんとも得体が知れない。好きな作品はいくつもあるものの、それらの共通項がなんなのか判然としないし、モチーフについてもあまり共感を覚えないことが多い。
つまり一見してストーリーに惹かれないことが多いのだけれど、観てみるとやられてしまうのだ。
今作においても「母の誕生日のパーティーに厄介者の長女が突然現れる」というプロットには特に興味は惹かれなかったし、怒号の飛び交う展開の映画が好き、という特殊な属性も持ち合わせていない。
しかし、何だろうこの感じは。この家族の諍いを見ることの覗き見的な楽しさ、背徳的な心地よさ。映画の楽しみとはそもそもこういうものだったのかもしれない、とすら思う。
この映画のキャラクターはキレると、とにかく思ってること全部言う。特に長女クレールは全部言っちゃう、言ったらいけないことまで全部言う。ひたすらナイーブで傷つきやすいクレールは、同時にひたすら攻撃的でさわるものみな傷つけていく。
享楽的で無責任な次男のロマンも、都合が悪くなるとキレまくり、理不尽なことをまくしたてる。こんなこと言ったらやだな〜ってことを全部言う。
さっきも言ったけど怒号の飛び交う展開が特に好きってわけじゃない、いやむしろ人並みに嫌いである。普通にストレスでしょ。
でもこの映画の諍いはなんだかとても良かった。滋養に良い感じがする。
しかしこれは自分には効いたと言うだけで、たぶん万人に効く薬ではないと思う。
なのでおすすめはしないよ。