すいかずら

映画 太陽の子のすいかずらのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
3.9
夏の強い光に音が吸い込まれるような、静かな作品だった。
昨年NHKでドラマ版放送。登場人物の大半が朝ドラでお馴染みの役者。自然とこれまでの戦時中を描いた朝ドラ作品を思い出してしまうが、これが驚くほど描き方が違う。世津は家が建物疎開を言い渡されても泣いたり怒ったりしない。諾々と受け入れ、丁寧にお世話になりますとさえ言う。祖父と共に幼馴染の家に居候の身となるが、そこではまるで平時のように温かく迎え入れられ、部屋も食事も充分に与えられる。修は度々大きなリュックで薬品を運ぶが、あんなのを担いでいたら強盗されるか憲兵に捕まるかが相場だった。

これまで描かれてきた“戦争=人心荒廃”というテンプレを排したことで、本作は若き科学者たちの挑戦と葛藤の物語になった。新型爆弾の開発。出征しない彼らにとっては大学の実験室が即ち米露との戦場。ウランや遠心分離器などをあんな真近で扱っていいのか心配だけど、修たちは実験を繰り返す。一方で未知の破壊力に葛藤も抱え──

主人公の修は実験や計算に没頭し、「綺麗な光を見たい」と夢を語る。演じる柳楽優弥が本当に幸せそうな顔をするが、あまり見ない表情で珍しい。修の弟・裕之の三浦春馬は、線は優しいけど軍人の佇まい。兄弟で科学者と軍人という立場は違うけど、お互いを尊敬してるから、それぞれのフィールドで頑張っている。
そこに幼馴染の世津。2人の妹分だが、有村架純は姉か母のように2人を諭し、包み込む。本作でもいつもの「すん」とした表情で、一本筋の通った佇まい。
世津が「戦争が終わった後のことを考えないのか」と呆れる。裕之=三浦春馬が「いっぱい未来の話をしよう」と気持ちを新たに微笑む。この物語の、いちばん美しいシーン。
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