Shin

ノクターンのShinのネタバレレビュー・内容・結末

ノクターン(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

クアーク監督の処女作ですが素晴らしい出来です。自分も幼い頃からピアノを習い続けているので、とても集中して観ることが出来ました。ここからが本題ですがこのレビューで伝えたいことはラストシーンは2通りの解釈の仕方が出来るということです。まず1つ目は『ジュリエットは善の心を持った本当の自分を殺した』という解釈。ラストシーンで彼女は屋上から飛び降りて死ぬという描写がありますが、これは実際に起きたのではなく『本来の自分を殺した』ということ。謎の楽譜によって引き起こされる不穏な数々ですが1つを除いてジュリエットに対しては良い結果をもたらし続けました。この楽譜によって姉・ヴィヴィアンを発表会の主演の座から引きずり下ろすことが出来た、つまり自分はこの楽譜のお陰で姉に勝つことが出来たということです。この楽譜があれば自分は姉よりも勝り完璧な存在となる、つまり今までの仲睦まじい双子の関係を捨て去ることになります。それをジュリエットの転落死という形で表現しているのではないでしょうか。
2つ目は『姉も悪魔に変貌していた』という解釈です。ラストシーンでジュリエットは屋上から飛び降りてモニュメントの上に落下しますが、そのポーズがフュースリーの描いた油画作品<夢魔>と同じです。また<夢魔>の制作背景と姉・ヴィヴィアンが妹・ジュリエットから受けた仕打ちというのも同じです。フュースリーの<夢魔>には彼が恋をした女性が結局別の男性と結婚してしまったという出来事が関係していると言われています。また<夢魔>の作品内には馬のモニュメントが描かれていますが、これは男性器の象徴という解釈がされています。これらとヴィヴィアンがジュリエットから受けた仕打ちは同じであることが分かります。パーティーの最中にヴィヴィアンは恋人のマックスとジュリエットの会話を目撃し、妹が自分の恋人を奪おうとしているのではないかという不安が生まれます。挙げ句の果てにはヴィヴィアンの知らない所で2人はセックスをしています。作中で描かれた恋人の略奪と性描写は<夢魔>の制作背景と完全に一致しています。そして最も恐ろしいのがヴィヴィアンの愛称である"ヴィー"というのは東スラヴ神話やロシア民話に登場する神話生物・ヴィーと全く同じということです。この神話生物の眼差しを見た者は昏睡し、そのまま絶命してしまうという恐ろしい言い伝えがあります。もうお気付きだと思いますが、まさにラストシーンは夢なのか現実なのか曖昧なまま終わりを迎えます。これらの解釈に従えばジュリエットはヴィヴィアン(ヴィー)がもたらした『夢か現実なのか判断出来ない、昏睡し何も分からぬまま絶命した』ことになります。
冒頭の追悼式で校長が「芸術家は常に闇と闘い続ける」という言葉を発していましたが、ジュリエットは闇と『共存する』ことを選びました。遂には姉に対する嫉妬心を溜め込めた結果、姉を蹴落とそうとする悪魔へ変貌してしまいましたが<夢魔>と<ヴィー>、ジュリエットが迎えた最期のことを踏まえるとヴィヴィアンもジュリエットと同じように悪魔になっていたというわけです。
Shin

Shin

Shinさんの鑑賞した映画