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シャドウ・イン・クラウドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シャドウ・イン・クラウド(2020年製作の映画)
3.3
 1943年8月、ニュージーランドのオークランド空軍基地から一機の爆撃機がいま地上から空に向けて飛び立とうとしていた。だが滑走路にはどういうわけか美女がいる。モード・ギャレット(クロエ・グレース・モレッツ)は不安に満ちた表情でプロペラが回りだした戦闘機へと向かう。その様子はどこか悲壮感が漂っている。無線の交信もないままのある美女の突然の登場を戦闘機の中の男たちは快く思わない。なぜならB-17爆撃機はこれから戦場の真上を航行するのだ。戦場にはおよそ似つかわしくない紅一点の美女は明らかにその場所の雰囲気にそぐわない。最高機密をニュージーランドからサモアへ運ぶ任務を上官から下されたと丁寧に説明しようが、連合国空軍の女性大尉である証を見せようが彼らはひれ伏してくれるはずもなく、心底邪魔な女性軍人の登場を苦々しく思うだけだ。爆撃機の中ではそれぞれが各々のポジションに陣取り、軍人としての仕事をするだけだ。所在なきギャレットもただ機内で黙って座っているわけにはいかず、狭苦しい砲台の銃座に押し込まれるしかない。

 クロエ・グレース・モレッツ一人が座るだけでやっとのその銃座は、F1のコクピット並みに窮屈で身動きが取れない。全面ガラス張りのその空間は高所恐怖症の人間からすれば地獄のような空間であり、どの方角からいつ敵の弾が飛んでくるかわからない緊張感が走る。それなのに機内では男どもがセクハラまがいの体育会系ジョークで主人公をただただ苛立たせる。真面目に見れたのはこの辺りまでで、そこから銃座のガラス越しに「クリーチャー」が出て来た時には冗談としか思えなかった。兵隊たちの助けから切り離された銃座の中はさながら『ゼロ・グラビティ』における宇宙船のコクピットか『エイリアン2』の脱出艇のように見える。外界からも軍人の庇護からも切り離されたその狭く苦しい空間はまさに極秘機密と称されたかごの中のあれとほぼ同じであり、壁一枚隔てて目の前に襲い掛かる恐ろしい敵からかろうじて2人を守るのだ。だが『エイリアン2』同様に「母は強し」を主題とする物語はその1点のみに集中するあまり、それ以外のリアリティを疎かにしてしまう。監督は第二次世界大戦時のアメリカ空軍の血の滲むような訓練をどこまで理解していたのか?クリーチャーの顔ははっきりと肉眼で確認出来ても日本兵の顔は認識出来ず、戦場のリアリティを無視したその後の展開には何度も疑問符が浮かぶ。見下げたのはアメリカ兵なのか日本兵なのかクリーチャーなのかその全てなのかさっぱりわかりかねる。
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