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オールドのogoのレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
4.1
これは、良いシャマラン!!

ストーリー運びもカメラワークも演出も、一周廻った「円熟」を感じさせる、シャマラン監督らしい新たな完成度。

「1日で50年の時が過ぎるビーチ」という不可思議絶望シチュエーションを土台に、表では上質なスリラーを展開。裏では、コロナ禍も想起させる社会課題や、人々の偏った常識と視点に、強烈な風刺を効かせる大胆さ。科学的なリアリティなど、この際どうでもいいやと思える。だって、そこは主題じゃないのだから。

登場人物の背後から静かに情景を切り取るアングルが多用され、グロ描写も極力見せない。結果、ドラマが際立って映る(今作は終始そういうスタンスなのかと思いきや、終盤では一気に裏切ってくるヤンチャさ。カメラの向こうでニヤリとするシャマランが見えるよう)

時間をテーマにした題材的に、何処か『インターステラー』的な時間の流れの強烈な差異と隔たりの絶望感を思い起こしたのだけれど、それとはまた違った「人生の凝縮」のような濃厚な時間密度がこの作品にはある。時間軸が違うのではなく、自分たちの時間が認知として常軌を逸して速いのだ。

いつも当然のように来ると思っていた明日は来ない。明日には、目も視えない、耳も聴こえない、背中は曲がり、身体だけでなく精神にも不調を来す。「今度伝えよう」「今度考えよう」が許されない時間の速さ。明日には、自分も目の前の相手も生きていない。未来が来ないのなら、今どう生きるのか。

人は概して、まだ見ぬ未来の希望や可能性ばかりを考えがちだ。努めて楽観的に、それは今を生きる姿勢と知恵でもあるのだろうけれど、一方で今目の前にある状況や目の前にいる人との今この瞬間の時間の中での対峙を忘れてしまってはいないか。「人生100年時代」? 自分がいつまで生きるか分からないのに、安穏と過ごしている場合なのか。

ただ時間の流れが異なるだけ。私たちは、毎分毎時間老い、今も死に向かって進んでいる。

だからこそ、今をどう生きるか。


シャマラン監督の真骨頂は、こうした視点のジャンプと転換だと思っているので、その点で素晴らしい刺激を与えてくれた良作でした。
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