MasaichiYaguchi

記憶の技法のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

記憶の技法(2020年製作の映画)
3.4
2016年に急逝した吉野朔実氏の原作漫画を、石井杏奈さん主演で黒沢清さんの愛弟子である池田千尋監督が実写映画化した本作では、東京の普通の女子校生・鹿角華蓮が韓国への修学旅行用パスポート申請の為に手にした戸籍抄本から始まる自分が何者であるかを探る旅が描かれる。
この東京から福岡へ向かう旅には功利的な青い瞳の同級生・穂刈怜が同行し、華蓮の過去の“真実”に迫っていく。
映画では華蓮を心身共に苦しめる幼少期の記憶の断片のフラッシュバックが何度も印象的に登場するが、本作は、この記憶の断片が何を意味するのかを探るものであり、バラバラだった断片がジグソーパズルのように一つ一つ嵌まる毎に彼女の過去が浮かび上がっていく。
福岡での調査は関係した人々の重い口でなかなか進まないが、徐々に紐解かれたものは凄絶な“真実”、それを前に華蓮は自分の“居場所”を見失いそうになる。
そして一緒に“ルーツ探し”に協力してくれた怜も“居場所”を見失った人生の迷子であることが分かってくる。
華蓮は“帰る場所”を見出だすことが出来るのか?
終盤で「良い記憶を積み重ねていく」という心に残る台詞が出てくるが、人はタイムマシンでも使わない限り過去を変えることは出来ないが、たとえ後悔や忌まわしさが残る過去があっても、それと向き合って乗り越えられるような素晴らしい経験や思い出を作っていくことが大切だということを本作は描いているような気がする。