Jun潤

川っぺりムコリッタのJun潤のレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
4.2
2022.09.25

松山ケンイチ×ムロツヨシ×満島ひかり。
何を隠そうステゴロアクションの次に食事シーンが好きな僕としては、見ているだけでお腹が鳴りそうになる予告編の時点で期待値は上昇しっぱなし。
最近ではシリアスな役が脳裏に焼き付いている松山ケンイチとムロツヨシが、いそうでいなそうな独特のキャラクターを演じてそうで、役者の演技にも期待をしつつ今回鑑賞です。

北陸のとある川っぺりにある「ハイツムコリッタ」。
そこに越してきた山田は、とある事情と長年会っていないし顔も覚えていない父の訃報を抱えていた。
お金も食べるものもなく、日々仕事だけしていた山田の下に、隣に住む島田が転がり込んでくる。
勝手に風呂に入るしご飯は食べる、でも彼が育てた野菜も持ってきてくれる。
他にもお墓の営業をしている溝口さんや、世話焼きの大家・南さんなど、周囲の人々との関わりの中で山田は生きていく。

これが実写版ジブリなのか…?
美味しそ〜にご飯を食べる人たち、子気味よく細かな動きやセリフによって笑わせてくるお話と、お腹は空いてくるし心が温まってくる。
そして夏野菜や川のせせらぎ、虫の音、台風と、夏の終わりに見たくなる傑作。

まずは全体的に、何か大きな山と谷があるわけではない、だけど序盤のシーンの積み重ねの時点でそんなものは必要ないと思えるほど、日々の生活の描写が濃い。
冒頭に説明があった通り、タイトルの「むこりった(牟呼栗多)」とは、1/30日、およそ48分のこと。
仕事をする、風呂に入る、ご飯を食べる、作物を育てる、休憩をする。
そんな「むこりった」の積み重ねが、貧乏でも孤独でも、幸せを感じさせてくれる。
そしてご飯は一人で食べるよりみんなで食べる方が美味しいんです。
すき焼きも漬け物もお米も食べたくなる(塩辛は苦手)、しばらくしていませんが、久しぶりに自炊もしてみたくなりました。
刹那怛刹那臘縛牟呼栗多…一瞬一秒一分の積み重ねが今日となり明日となり、1週間1ヶ月1年と続き、積み重ねてきた幸せを感じることができる。

作中では用語だったり風習だったり縁起が悪いとされることだったり、仏教に関することが散りばめられており、それらと併せて登場人物たちの死生観が描かれていました。
死はいつかくるということ、きちんと供養することの意味、死んだ後も深く愛し続けること、多くは望まないけどもう一度会いたい人のこと。
詳細な描写が無くても、日々の生活の裏には色んな過去や背景があって、そんな人たちが隣同士支え合って、人間の営みが生まれてゆく。

演技については、まずは吉岡秀隆さんのフグ刺しのくだり。
やっていることはシュールなのに、本当に目の前に料理があるかのように感じさせる表現力の高さに圧巻されました。
そして目元だけなのに存在感を発揮する江口のりこに、声だけで説得力やキャラ相関の繋がりを感じさせる薬師丸ひろ子と、メイン層への期待が大きかった分、脇の演技力により魅了されました。
Jun潤

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