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川っぺりムコリッタのxavierのレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
3.9
心をほぐす幸せがある…
出来るだけ人と関わらずに生きたいと思い、北陸の小さな街にある塩辛工場で働くことにした青年・山田。
工場の社長からハイツコムリッタという古く安いアパートを紹介され、住み始めた彼は風呂上がりに飲む冷えた牛乳をささやかな楽しみにする毎日を送っていた。そんな中、隣人の島田が風呂を貸してほしいと部屋に上がり込んでくる。それを機に島田と友情が芽生え、他の住人とも触れ合うようになるが、山田は北陸にやって来た理由を島田に知られてしまう…
ストーリーはこんな感じ。
荻上直子監督の作品は、これで4本目
"かもめ食堂"に"めがね"そして"トイレット"と観てきたが、今回の作品は今までの作品とは、かなり違った。
今までの観てきた作品は、結構癒やし的な作品だったのが、今回は"生と死"
がテーマな作品だった。
1人の青年が北陸の小さな街の塩辛工場にやって来るところから、物語は始まる。山田は積極的に人とは絡む事もなく、孤独な生活を送っていたが隣人島田によって、それが崩れていく。
自称"ミニマリスト"、ホントは"貧乏で図々しい奴"な島田。
引っ越して来たばかりの山田の部屋をいきなり訪ね「風呂を貸してくれ」という言葉を聞いた時は、図々しい奴だなぁ…って思ったし、反対側から無理やり部屋に上がった時もそう思った。そしてそれで終わりか…って思っていたら、山田のご飯を勝手に食べだすはやりたい放題。最初の方はホント島田には共感が出来なかったなぁ。

アパートの他の住人も変わっている。
溝口は墓石のセールスの仕事を子供も連れしているが、そうそう墓石なんて売れる訳ない。なので、親子ともども
美味しいものを食べている空想をし、空腹を紛らわせている。溝口は吉岡秀隆が演じているんだけど、佇まいといい言動といい、荻上作品ではおなじみの"もたいまさこ"みたいで面白い。
大家の南はだいぶマシなんだけど、ところどころの言動の中で"あれっ?"って思う言動が多いから、多分まともな分類には入らないかも。
まぁ、だけどムロツヨシ演じる島田には2人とも勝てないけどね。

とキャラ的には面白い。
だけどストーリー的にはかなり重たい
人は少なからず、触れられたくない過去もあるもの。その事が人生に反映され生きづらくなっている人もいるだろう。この作品では山田が典型的な例。
過去の事で、自分が幸せになっていいものか悩んだり、人とも関わりたくないと積極的に孤独を選んでいる節があるしね。
またもう一つのテーマとしては"死"について。大家の南は夫を亡くし、その焦燥感は5年たった今でも続いている島田も過去に愛する人を失っている。
それは自分の子供。自分の事は、あまり喋らない島田なんだけど、ポロッと息子がいたということと息子は死んでいる事を喋っている。山田は、もう何十年も会ってもいない父親の死だ。
小さい頃から、両親には酷い目に遭っていた山田は、死のうが生きていようが関係のない話がなんだよね。でも、島田の言葉にほだされ遺骨を取りに行くことを決める。
「どんな人でも、居なかったことにしちゃダメだ」と言う言葉に…

苦しい中で生きる意味を諭すところで島田が山田に言った言葉も良かったな
「ささやかな幸せを細かくくっつけて行けば、何とか持ちこたえられるものなのよ」と…
この2つの言葉は刺さったなぁ…

アパートの名前にもなっている"ムコリッタ"って言葉は仏教用語で、意味は"ささやかな幸せ"
まさにこの作品にピッタリな言葉だよね~。

重く考えさせられる作品なんだけど、個人的には好きな感じの作品。
他の見どころとしては、どこかで"NOPE/ノープ"の"あれ"的な物が出てくるところと薬師丸ひろ子が意外な出方をしてるところが見どころかな…
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