悲しいけれども絶望だけじゃない何かが確実にそこにあると感じられる映画でした。まずは全体的に画作りがとてもきれいで印象的でした。ものすごく凝っているとか作り込まれているというのとは違い、どこを切り取っても「この画でなければならない」という必然性のようなものを感じられ、それがこの映画自体の説得力をかなり強めているように思います。その一方でストーリーにはやや曖昧な部分が多く、どこかSF的な要素も感じさせる一方でものすごく日常的なことを描くというのも面白いし、とにかく不確定でこちらが想像や思考で補う余白がとても多いというのも楽しめました。終盤だんだんとこの映画の輪郭がはっきりしてきた時に、静かな悲しみと少しの前進が見えるというささやかな広がりも味わいがあって良かったです。記憶というものとそれを保持している人間、そこに伴う感情など、さまざまなことをわりと淡々と描いているのに、観賞後には自分の中に寂しさと悲しさと少しの光がじんわりと、でも確実に広がっていくという体験が、何ものにも代えがたい心地よさを感じさせてくれました。万人にお勧めはしませんが、気になっているならぜひ見るべき一本です。