映画に携わる人間たちを描いたアニメ映画。伝説的なプロデューサーの娘、ポンポさんの元で働くアシスタントが映画監督を目指す。
本作で特徴的なのは演出だろう。アニメならではの作劇描写やシーン切り替えの妙、作中で触れられる映画論をふんだんに取り入れたメタ演出など、見ていて飽きることがない。また、時系列や視点が頻繁に入れ替わるのだがこれも違和感なく移行できていて混乱することもない。とにかく丁寧に作られていると感じた。
キャラクタの作りも上手く、最初は慣れないことばかりで素人感が抜けていない演技をしていても後半では芯のある人間として映画制作に立ち向かう様が見られるようになる。
幾らかご都合的に思われる箇所もあったがそこはご愛嬌、怒涛にして濃密な展開に身を任せればあまり気にならない。だがその演出に少々のマイナスも。まずは脚本の構造、劇中劇見せ方だ。劇中劇と現実を織り交ぜたシナリオは見事だが、畳み掛けるように双方を切り替えられると流石に咀嚼に時間がかかってしまう。その間に次の場面へ切り替わってしまうと置いてきぼりの感がある。
しかし何より残念だったのは劇中歌の使い方だ。せっかくの良い場面で決定的な台詞が喋られているのに歌詞つきの歌が流れては台詞に集中できないどころか台詞が抜けてしまう。肝心の本編を邪魔する劇中歌とはさすがに擁護できないだろう。それが何度か繰り返されるのだからいっそ醜悪、映画を害する刺客にすら思えてしまう。また、曲調が現代日本風ポップ曲なのもいただけない。作品の舞台は海外のみだし、作中キャラの造形とも離れている。作品世界に没頭していたのが一気に現実に引き戻されてしまうのだ。まぁKADOKAWAなのでいつも通りの経営戦略、作品にケチをつけてまで売りたいものをコマーシャルするいつものアレなのだろう。それで制作費を持ってきているのだろうから全否定は出来ないものの、映画の質をすこぶる落としていることには自覚的であってほしい。このマイナスさえなければ個人的映画ランキング上位に食い込んだだろうに、本当に惜しいことをしてくれた。
総評として、瑕はあるものの上質な映画体験、時間も忘れて視聴できる傑作だ。誰にでもオススメできるが、特に創作という地獄に興味のある方なら視聴は必須と言い切れる。