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女たちのtsukikoのネタバレレビュー・内容・結末

女たち(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

映画「女たち」初鑑賞。篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子の熱演があまりに素晴らしかった。

同作は教職を持つも就職氷河期で職にあぶれ地元にもどり、半身不随の母(高畑)の介護に追われている美咲(篠原)と、地元に戻り養蜂家となった香織(倉科)の人生を描いた作品。

女性にとってひとつの分岐点であるアラフォー。美咲と香織はそれぞれ心に傷を負っているけど、美咲は恋人との未来に幸せに期待し香織は精神的な行き止まりで動けなくなっている。

しかし美咲も恋人の裏切りなどから行き詰まり、香織については自死という道を選んでしまう。

養蜂場があるだだっ広い高原で、楽しそうに食事したり語らい合うふたり。大丈夫、と言い合いながらも未来には暗雲が垂れ込めていた。

少しずつ追い詰められていく美咲の目に映るのは普通であるはずの人々の、辛辣で醜い姿だ。それを見るのがまた辛くはらはらするが、まるで追体験させられているようで、より感情移入できてしまうつくりとなっている。

学校を卒業して結婚、出産、子育て、家を買って…そんな人生がいまや普通ではなくなってしまった日本。

さらにコロナ禍となり、追い込まれていった女性たちを意識して作られた同作。劇中ではカビ騒動があった“安倍のマスク”を静かに燃やすシーンがあり、闇の中で浮かび上がる美咲の表情はなんとも言えない。

全編にわたって風景や場面の撮り方が秀逸で、特に倉科演じる香織が自死に至るシーンは悲しくも狂おしいほどに美しい。高原に置かれたいつも美咲と語らい酌み交わすテーブルで、薬をワインで飲み下し、たっぷりのパスタやらチーズを食べていく香織。その苦悶の表情は、ガラスの中で静かに揺れる小さいな炎に照らされている。雨が降り始め、涙を流しながらワインをあおり続け、やがて……。

篠原ゆき子は放送禁止劇場版3から注目していて、そろそろブレイクしないかなと期待している。悲壮感のある表情が極上にうまい。不幸な女を演じさせたら右に出る者はいないと思う。張り詰めた表情はあまりにリアル。

そして、高畑淳子の麻痺した身体の再現や迫真の演技にも圧倒されっぱなしだった。

ラストは意外にも救いがあったのだけど、だからといって毒親を許した方が幸せになれるとは絶対に思わないでほしい。

映画は教訓ではない。あくまで美咲の物語である。彼女はああいう選択でよかった。狭い田舎に留まっても彼女は幸せになるた。でも、人生を生きる毒親サバイバーたちは憎み続けてもいいし許してもいい。もちろん、そこから逃げてもいい。どちらがいいなんて絶対にない。許しても不幸になることなど腐るほどある。

だからあの幸せなラストは素晴らしかったけど、あれを観て「やっぱり家族は分かり合うべき」なんていう想像力が欠如した感想が目に入りませんように。
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