ストローブ=ユイレ夫婦による編集作業という貴重な映像資料としての価値より、熟年夫婦による乾いているのにどこかユーモラスなやり取りの面白さのほうが勝った『シチリア！』のメイキング映画。
夫であるストローブが観念的な言動をひたすら繰り返すのに対し、妻のユイレは無視するか一言返すだけであとは黙々と編集しているのが二人の関係性を表している。そして夫の言動がしつこすぎると「あんた黙って！」とキレるのが夫婦漫才みたいで可笑しい、そして旦那は「どうせそうだよ」と言わんばかりにすぐ黙るか煙草を吸いに外に出るのも笑いを誘う。
メイキングでよくあるインタビューの場面が皆無で、作業している模様をひたすら撮っていくことでストローブ=ユイレの映画に対する姿勢を自然と観客に知らしめていくスタイル。膨大な映像のなかからそうした場面を巧みにチョイスしていく手口といい、登場人物をシルエットで捉えたスタイリッシュな映像といい非凡なペドロ・コスタ監督の演出が随所で光る。
何気ない、しかしかっこいい仕草で終えるラストが良い。
孤独な独自の道を歩んでいるはずのストローブ監督が、たびたびヒッチコックやフラー、溝口健二、チャップリンを饒舌に語っているのも面白い。でも景色の映像を見てる最中に『雨月物語』の名前を挙げるのは一体どういう意味が…(溝口監督は風景の映像を最も嫌っている監督なのに)、あと『山椒太夫』のラストにもちらりと触れているがゴダール同様影響を受けているのか。
