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ある人質 生還までの398日のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

ある人質 生還までの398日(2019年製作の映画)
4.5
@試写
 2020年に見た女性監督の映画51本のうち、ほぼほぼベストワンなロネ・シェルフィグ監督『ニューヨーク 親切なロシア料理店』の敵役であるヒロインの夫役の男優サンが、パンフレットにキャスト・プロフィールさえ載っていないにもかかわらず、冷たい陰影の深さが印象に残った。それがこの作品に主演し、2020年のロバート賞(デンマーク・アカデミー賞)主演男優賞に輝いたエスベン・スメド!

 実話の忠実かつ見事なドラマ化。
 できれば世間が目を逸らしたい人質事件の残虐さをリアルに再現し、動かない政府、身代金はISに活動資金を提供することになるというジレンマのなかで必死に寄付を募る家族・・・・・と途方もなく複雑な問題が偏りなく、沈着冷静だけれど実に濃い迫力で描かれている。

 監督は『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09)のニールス・アルデン・オプレヴ。共同監督のアナス・W・ベアテルセンが人質救出のプロとして渋い演技と存在感を見せる。

 戦場でもサッカーをしながら生き生きとした表情を見せる子どもたちの姿に打たれ、戦争のなかの日常を記録したいと素朴とも言えるほどの志でシリアに向かった新米の若きカメラマンのダニエル・リューはISの人質となる。成功しなかった脱走、凄惨な拷問と飢え、自死の試み、そして人質仲間で「ヤツらの憎悪に負けたくない。僕の心にあるのは愛だけだ」と彼に告げ、その後処刑されるアメリカ人ジャーナリスト・・・・・・。

 原作はデンマーク放送協会の中東特派員を務めるプク・ダムスゴー。
 
 デンマークは国連を重視し、国際平和活動として世界の紛争地域に軍隊を派遣しているが、アフガニスタンのその最前線の基地で密着撮影を行ったドキュメンタリー映画『アルマジロ』(10、ヤヌス・メッツ監督)、やはりアフガニスタンの平和維持活動での民間人殺害容疑によって母国で軍事裁判にかけられる部隊長を描いた劇映画『ある戦争』(16、トビアス・リンホルム監督)と、重い問題提起をしている秀作を産み出している。本作も含めて、これらの映画はたぶん、デンマークの成熟した市民社会の下支えなくしては実現しないだろうと想う。
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