ぺん

声もなくのぺんのレビュー・感想・評価

声もなく(2020年製作の映画)
4.2
ユ・アインが体重を15キロ増量し一言のセリフも発さずに演じたクライムサスペンス。
ホン監督の長編デビュー作でもある。
犯罪と社会的格差を描いた作品であるのに、どこか牧歌的で笑えるしほのぼの。優しげな空気がふわふわ漂う。
その一見自由で穏やかな世界には従順であることへの歪さが垣間見える。

ヤクザが殺した後の死体処理を請け負う主人公テインとチャンボク。直接人を殺めはしないものの、生活のためにか犯罪に手を染めている二人。
特にチャンボクは敬虔なクリスチャンで、遺体の前で聖書を読み上げたり、テインにも聖書のテープを聞かせようとする。
神を讃え従っていればいつかは救われると信じて。
二人は誘拐された少女チョヒを渋々預かるが、このあまりにもしっかりした少女からは既に家父長制に囚われている様子が伺える。
女性は家事をし、男性を敬い、従うことが彼女の日常で「パパは私よりも弟のほうが大事だから身代金を出し渋ってる」とも感じ取っている。

韓国にクリスチャンが多いのは、経済格差もあり社会的に不安定である故、縋るものを探す人が多いからと聞きます。
自分は無宗教ですが何かに縋り心の支えを求める気持ちは分かるので否定はできない。
長いものに巻かれて従うほうが楽だとは宗教に関係なく自分も感じる。ただ本当にそれでいいのかな、とは…

扉に鍵がかかっていないならどうする?
テインとチャヒがそれぞれ初めて反抗し戦った結果は…
最後、お辞儀をする際に表情をさっと変えるチョヒになんとも言えない気持ちになった。寂しい。
人と人が素のままで触れ合うには、現実はしがらみだらけだよ。
それでもテインと妹、チャヒ、チャンボクの4人で戯れたシーンにある優しさは嘘ではなかったと思う。
夕闇のピンク色、田畑の緑、血の赤、スーツの黒。鮮やかな彩りやショットの美しさも少しやりすぎかと思ったが幻想的で儚さを感じられた。
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