モモモ

ドライブ・マイ・カーのモモモのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
濱口監督とは食い合わせが悪く今までドツボにハマった事は無かったんですが…今作は趣向のど真ん中にクリーンヒットでしたね…長尺が全く気にならない所か「この映画があともう少しだけ続いていて欲しい」と願い続けた179分。
村上春樹原作の映像化としては「バーニング」が僕の中では最適格だったのだが、今日からは本作との二大最適格にさせて貰おうと思います。
とにかくメタファー、メタファー、メタファーな一作。
事実と向き合う事から目を背けた男。
見えなくなっていく目の病気もメタファーで、それ故に事故に遭い、それ故に妻を失い、それ故に自分が分からなくなる。
車は己自身であり、聖域であり、他者を拒む空間であった。
最愛の妻の運転でさえ居心地の悪さを感じるその空間に不本意ながら他者を招いてしまう。
他者を受け入れて、相手の心の内を知り、その過程で自分自身を知るしか救われる道はない。
人との交流を通して自分自身で自分を救う物語。
正直に生きる事。本音を吐露する事。そんな当たり前の事をこなす事の難しさたるや否や。
「まるでそこにいないかの様に」運転してくれた女性。それは「自分がない」事の裏返しでもあったのかもしれない。しかし「自分がない」人など何処にもいないのだ。彼女も又、その車の中で自分自身を赦す。そして自分を取り戻す。
彼の車が彼女の車へと至り、続いていく。
ドライブ・マイ・カー、何て素敵なタイトルだろうか。
舞台の演目、行為の後に浮かぶ脚本の2つが物語とメタファーを補完していく様も素晴らしい。
「俺しか知らない彼女」「俺しか知らない物語」の続きが予期せず発露する男達の会話に心臓を鷲掴みにされた。
脚本、役者、演出が完璧に噛み合った理想的な会話劇。
西島秀俊史上、ベストアクトでは無いだろうか。
やっと濱口演出の良さを理解する事が出来た。
もう1度映画館で観賞しておきたい。
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