けいすぃー

ドライブ・マイ・カーのけいすぃーのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

素晴らしい作品だった。まずは心からそう言いたい。
uplink吉祥寺で夜の鑑賞を終えた後、ハーモニカ横丁でビールを片手に一服しながら、名付けようのないこの感情を少しずつ形容していこうと思う。

複雑に絡み合う人間関係を丁寧に紐解きながら、登場人物たちの感情変化と共に旅路を行くような3時間。
言語の持つ有限性とその可能性を同時に感じ、沈黙の生み出す説得力を味わえる未だかつてない体験。

車という閉鎖空間、製作過程を含めて色々な角度から見える舞台、その一つひとつを巧みなカット割とカメラワークで追いかけて行く。
車内のシーンやクライマックスの雪原であそこまでのロングショットに耐えうる土壌作りと、俳優たちの渾身の演技、演出など、どこを取っても絶妙な表現力だった。

手話すら交えた多言語による独自の技法もさることながら、静寂が効果的に用いられていた。
音の物語中に登場する部屋、ヤツメウナギが過ごした水中、北海道の雪原、そして手話に耳を傾ける瞬間、その無音には心地よさがあり、微かな音に気づく瞬間でもある。

車を走らせている間の静寂にも、様々な音が含まれていて、それは胎内のような安心感があるのだろう。
車内で次第に人物に近づくカメラは、そのカメラの存在を忘れさせ、まさに隣の席で話を聞いているような臨場感を持たせる。

ひとたび書き出したら枚挙にいとまがないほどの技巧が織り込まれていた。
車内に置き去りにされるカメラ、音の不倫現場に遭遇し施錠をせずにその場を後にする家福、家福とみさきの物理的・精神的な距離の縮まり方、鏡の使い方、シルエットの作り方、セリフのタイミング、登場人物の発する言葉とその真意、、、

全ての感情を昇華するのにはまだ少し時間がかかりそうだ。
けいすぃー

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