ばろん

ドライブ・マイ・カーのばろんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8
この映画は家福とみさきの2人が、喪失と悔悟を経て再び歩き出すという普遍的なロードムービーとして観ることができる。
2人はそれぞれ、妻、母を「殺した」呪いに縛られていた。家福は車に乗りテープを聴くことで死の事実から目を背け、みさきは車を走らせることで答え探しの旅に出た。
みさきの故郷である北海道に2人車を走らせる。2人は真実を語り、感情を吐き出し、現実と向き合う。家福は疑念を感じていた妻をありのままの姿として受け入れ、みさきは車を手に入れることで自分の人生を歩み始めることができた。2人の変化の過程は運転の譲渡、高槻の車中の告白、舞台演劇など各場面において段階的に(時に対照的に)描かれているのが面白い。

みさきが韓国にいる状況は広島から韓国行きの便があることを鑑みれば想像に難くない。孤独で1人生きてきた彼女は家福と出会うことで過去の過ちを赦し自分の人生を歩み始めることができた。ドライバーという仕事は誰かのために車を走らせることでありそこに自身の意思は伴わない。乱暴な言い方をすればそれは他人任せの生き方だった。家福と出会い、演劇に出会い、手話使用者の俳優とその愛犬に出会う。様々な出会いと関わりを経て彼女なりの生き方を知ることができた。更に彼女の乗る車は家福のサーブだ。つまり家福が愛車を手放したことで自身の束縛からも解放されていることが暗に示されている。
40分ほどある長いプロローグに始まり大きなうねりを見せながら辿り着いた地の先には確かな答えが示されていたと感じる。決して短くはない鑑賞時間ではあるが、それに相応する一種の読了感にも似た感情で心が満たされた。
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