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ドライブ・マイ・カーのzackmanのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.0
問題を抱えている主人公の心の葛藤を淡々とした流れの中で少しずつ解き明かしていく様は正に純文学の世界である。

ただ、ずっと違和感を感じながら観ていたのも事実である。

絶望を抱えて生きる、いや、生きることこそ絶望そのものであるというチェーホフの世界観を、主人公と重ねて進行させていき、物語の核心を主人公の言葉よりもチェーホフの戯曲に語らせるその手法は新鮮であるとも言えるが、それなら素直にワーニャ叔父さんを映画化すれば良いのでは?とも思える。

そして1番の違和感は、帝政ロシア末期の世界観を現代の日本と重ねたことである。
当時のロシアは、共産党革命前夜であり、世界も第一次世界大戦へと向かう人類史上もっとも不安定な時代である。生きること、それは絶望である、という言葉に社会そのものが共感するほどの陰鬱な時代なのである。

それを、浮気されても何も言えずに絶望している主人公と重ねている事に、チェーホフが聞いたら、きっと爆笑して【君は幸せな人生を送っているんだね!】と言うんでない?

本人にとっての悩みや絶望は勿論本人にしかわからない。それを簡単にちっぽけなことだと言うべきではない。

だがしかし、芸術作品として世に発表するならばその限りではないはずである。はっきり言おう、なんとちっちゃい男なのだろう。

とは云え、見応えがあったのは事実である。

そして、個人的にこの映画で一番感動したのは、手話者の存在である。クライマックスの劇中でこの手話者に物語りの核心を語らせるのだが、素晴らしいと感じた。
手話を外国語と捉えれば、最早聾唖者は障がい者ではなく、普通の二か国語を理解しているバイリンガルなのだということ。
それに気づかせてくれただけでこの映画には大きな価値があると言える。

それ以外の価値?  ほぼない。
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