アン

ドライブ・マイ・カーのアンのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.6
「あ!将生事故ってる」のくだりが最高に良かったです。

オープニングに、みんなが大好きなベケット ゴドーを待ちながら だったこともありこの映画が不条理なものであることを予感させました。

チェーホフの ワーニャ叔父さん は、日常生活の中で抱える愛情、嫉妬、孤独などの感情を通して、人間の存在の意味や喜びを伝える作品です。ゴドーを待ちながら とは全く別のテーマを扱ったものになります。前半が不安、絶望であるのならば、後半は喜劇、希望をテーマに添えているようでした。

前半はいかにも村上春樹がベースに作られた物語らしい とにかく射精させたい という強い思いがこれでもかとでていました。
この時点では駄作の予感がしていましたが、そんなことはありませんでした。
原作だと主人公と高槻は飲み歩いて、最後に本音を引き出せたというような話だったと記憶しています。車中のとんでもない告白と、その後続実質的な暴力でここまで会話劇中心だった物語に動が加わり一気に作品が走り出し、後半に行くにつれ引き込まれていきました。

ひたすらとダイアログや台読みを繰り返していたのは効果覿面でした。
序盤にあった台本読みで日本人の役者が、別言語が話されているときは何を言っているのかわからないから寝そうになってしまうとの台詞がありました。すでにここにヒントがあり、多言語で上演される劇中劇の設定は聴く、向き合うこのための設定だと後半になり理解しました。読むだけに本気、話すだけに本気で、聴くことを疎かにした悲しさが表現できていたように思います。

ゴドーで始まり物語全体に不吉さを感じさせつつ、ワーニャ叔父さんで物語に希望があることを見事に暗示した良作でした。


最後に愛(哲学)ある歳の差セックスをしなくて安心しました。
アン

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