りっく

彼女のりっくのレビュー・感想・評価

彼女(2021年製作の映画)
2.5
ピンク映画出身の廣木隆一は、最近はキラキラ恋愛映画を撮る職人として名を馳せているものの、元々は『ヴァイブレータ』『軽蔑』『さよなら歌舞伎町』といった訳ありな男女の性や愛を一貫して描いてきた。そんな廣木監督に水原希子とさとうほなみによるセンセーショナルな愛の逃避行が託されたのは適任だと言える。ふたりの息遣いを逃すまいと長回しで空気をまるごと刻もうとする意図と、それに応えるふたりの熱演は見応えたっぷりだ。

もう死んでもいいと、厭世的に、やけっぱちに世間から離れていく二人の姿は『テルマ&ルイーズ』のようなロードムービーを連想させる。10年という月日によって生まれた空白を埋め、そこから解放してあげる旅路。道中で七恵の実家や、レイの別荘を巡り、最終的に行き着く海辺の小屋で愛し合うふたり。家族と過ごした場所から開放され、この世の果てでふたりだけの時間と空間を共有できる場所を見つけるまでの過程も、フラッシュバックを効果的に挿入しながら、淀みなく語られていく。

だが、本作で致命的なのは、彼女たちの言動を「なぜ人殺したかわからないけど、当人同士が納得してたりゃそれでいい」と台詞が代表するように、レズビアンは結局社会から阻害されるような生き方しかできないというような印象を持たせてしまう点だ。ふたりの台詞も何かを代弁させられているかのように常に深刻で、例えば「バカなレズの人殺し」と自分自身を卑下する必要があるのだろうか。

また彼女たちと世間や社会との接点となるキャラクターたちの描写も書き割り的で酷い。特に男性の書き割り的な描かれ方は極端で、DV夫、性交渉を強要するタクシー運転手、正論だけをひたすら繰り返すレイの兄と、男のクズさ加減を際立たせることで、彼女たちの逃避行を正当化させるためのアイテムに過ぎない。一切変装もしない目立った出で立ちの彼女たちを追う警察の無能さも気になるため、最後に自首して第三者に引き離されるドラマチックな場面が全然盛り上がらないのは辛いものがある。
https://www.shimacinema.com/2021/04/19/ride-or-die/
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