「宝島」や「ジキルとハイド」などで余りに有名なR.L.スティーブンソンと、その継子ロバート・オズボーンの共著「間違った箱」が原作。
「死の宝くじ」ともいうべき配当金を巡って巻き起こる混乱を描いたブラックコメディ。
いわゆる Victorian moralityを60's風に皮肉った内容は、イギリスでは今更過ぎてややウケが悪かったようだが、イギリス国外で想像される「イギリスらしさ」を兼ね備えた作品という事で、国外ではそこそこヒットしたらしい。
物語は19世紀初頭、生存者のみが現金を受け取る事が出来るトンチン(死亡保険)を弁護士が説明する所から始まる。トンチンの対象として集められた20人の子供たちはやがて成長し、一人は決闘の立ち合い中に流れ弾が当たり、一人は出港式で割るシャンパンが頭に直撃し、一人は女王からナイトの叙勲を受ける際に、両肩に当てるはずの剣が首筋に…といった具合に、次々とギャグみたいに死んでいく。このシークエンスが無駄に長いが面白い。
そして63年後、トンチンの相続者として生き残ったのはロンドンに隣同士で暮らすマスターマンとジョセフの年老いたフィンズベリー兄弟だけだった。ジョセフにはモリス、ジョン、ジュリアの三人の孫、マスターマンには一人の孫、マイケルがおり、マイケルとジュリアはお互いに言葉は交わさないが親密な仲で、金欠のモリス・ジョン兄弟はどうにか先にいとこの祖父が死んでくれないかと気が気ではない。
その最中、病気に臥せっていたマスターマン危篤の電報を受け取ったジョセフ、モリス、ジョンの三人は滞在していたボーンマスから急遽、ロンドン行きの列車に乗る。孫の監視から逃れて別の客室に入ったジョセフは、同室の男に退屈な話を長々と語り、辟易させる。タバコを吸いに部屋を出たジョセフが置いていったコートを、その男が着る。実は男の正体は逃亡中の連続殺人鬼だった。その直後、ジョセフ達の乗るロンドン行列車とロンドン発列車が衝突。モリス・ジョン兄弟は祖父のコートを着たバラバラ死体を見つけ、ジョセフが亡くなった物と勘違いしてしまう…
誤解とすれ違いが多重構造的に積み重なり、更なる勘違いとすれ違いを生んでいく緻密な構成が上手い。それを終盤で一気に崩壊させていくカタルシスも心地良い。
笑いのセンスや間がモンティ・パイソンに近い部分があり、既にしてこの頃から確立されていたスタイルだった事に驚く。とは言え、劇中に度々挟まれるインタータイトルが後半多用され、やや煩わしかった感はある。
キャストが当世一流の俳優やコメディアンを集めているので、配役を見ているだけで楽しいが、特に祖父のジョセフを演じたラルフ・リチャードソンの飄々とした演技が最高。全く知らなかったが、実はジョン・ギールグッドやローレンス・オリヴィエと並び、20世紀を代表するイギリスの三大名優の一人らしい。
マイケル・ケインとナネット・ニューマンのバカバカしいほど奥ゆかしい恋愛描写。オペラかよと言いたくなるほど大仰な小芝居好き。
ピーター・セラーズが人をイライラさせまくる不潔なアル中の医者を好演しているが、脇役なので、やや本領発揮出来ていないように見えた。
執事役のウィルフリッド・ローソンも観ているこちらが心配になるほど、モゴモゴの台詞ヨボヨボの演技で際立っているが、実際はこの時まだ66歳だったというから驚く。本作の後、すぐにお亡くなりになってしまったのが惜しまれる。
舞台はロンドンという事になっているが、フィンズベリー家が暮らす三日月型の住居はバースのロイヤル・クレッセント。それ以外にも同じくバースのセント・ジェームズスクエアなどがロケ地に使用されており、ジョージ朝時代の美しい建築が映えて目に楽しい。