Terrra

栗の森のものがたりのTerrraのレビュー・感想・評価

栗の森のものがたり(2019年製作の映画)
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全82分のうちタイトルクレジット30秒、76分30秒でENDマークなので実質76分。この尺でこれほど豊かな物語りを紡ぐとは開いた口が塞がらない。これ劇場で観たらしばらく席を立てなかったと思う。
厳格にコントロールされた光と色調、ゆったり動くパンとズームを基調にした流麗なカメラワークに惚れ惚れする。

『本作の撮影地は“栗の地”スラヴィア・ヴェネタ 旧ユーゴのスロヴェニアとイタリアの国境地帯である 第二次世界大戦後 貧困と政治的緊張により多くの住民が故郷を去ることを余儀なくされた この土地とその民に本作を捧げる』
無音の字幕に続いて、一面枯葉で埋め尽くされた地面に穿たれた穴に大量の栗を埋める様子を真上から捉えた美しいショット。この、まるで埋葬を思わせるシーンから谷で最後のお伽噺《しみったれ大工のマリオと最後の栗売りマルタの物語》が始まる。

語り手は村を去って帰らぬマリオの息子ジェルマーノ。回想とも夢とも判然としない二人のエピソードが循環的に語られるが、画面隅の暗がりへパンして暗転したり眠りに入ったり、繋ぎがとても丁寧で混乱しない。
室内シーンは深い陰影により画面から余計なものが排除され、絵本のように見るべきものだけが映っている。
屋外シーンでは谷に留まる静的なマリオは背中を見せて画面の奥へ歩き去り、海を目指す動的なマリアは横移動でフレームイン&アウトする。マリオは緑と栗色、マリアは水色に包まれている。

暗い室内に浮かび上がる物言わぬ顔や、ぬっと差し出される手足が雄弁に語る。漆黒の夜道を走る馬車から見る村を脱出する人びと、戸外で煙草に火をつけた先に浮かび上がる幻などの贅沢な照明。
東方の賢者と称する死神や鋭い掛け声と共に展開するスピード感溢れるじゃんけん賭博に異国を感じ、猫/鶏/食器/日記など一瞬挟み込まれるブツ撮りも印象的。

全体的に静かな作品だけに突如流れる音楽が鮮烈に響く。3場面いずれもダンスシーンだが、それぞれの楽曲が担うものの違いに痺れる。
そして絵本を閉じるように栗の埋葬ショットで終幕。最高か!
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