MasaichiYaguchi

誰かの花のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

誰かの花(2021年製作の映画)
3.9
「横浜シネマ・ジャック&ベティ」が30周年として企画・製作された本作は、横浜の生まれ育ちで、10代の頃から同館に親しんでいたという奥田裕介監督が、5年前に身内を交通事故で失ったことや、そのことに伴う近親者のエピソードを交えて映画化している。
だから映画に登場する人物の設定や、それらの人々の言動やエピソードは決して特異なものではなく、誰にでも起こり得ることであり、ひょっとしたら周りに同じような境遇の方がいるかもしれない。
主人公で鉄工所で働く野村孝秋は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義と、そんな父に振り回される母・マチのことが気掛かりで実家の団地に訪問する。
しかし父・忠義は、数年前に交通事故死した孝秋の兄との区別がつかないようで、孝秋をぼんやりと認識出来るだけだった。
強風の吹いた或る日、実家の隣家のベランダから植木鉢が落下し、見知った団地の住民が亡くなるという事故が起きる。
その日、ベランダの窓が開いたままで、父・忠義の手袋に土が付着しているのを見付けた孝秋は、父への疑いを募らせていく。
果たして、植木鉢落下による住民死亡は事故なのか、事件なのか?
良かれと思ってしたことが裏目に出るのは誰しも経験があると思う。
この映画の場合は善意の行為が負の連鎖を生み、そのことに関わる人々が疑心暗鬼の中で葛藤し、苦悩する様がリアルに描かれていく。
だが、負の連鎖のドラマの先に、本作は一条の光のような希望があって、温もりが心に残ります。