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フィールズ・グッド・マンのdxdxdのレビュー・感想・評価

フィールズ・グッド・マン(2020年製作の映画)
4.1
アメリカのゆるキャラ・カエルのペペのネットミームで人気になったが、
ひょんなことからヘイトのシンボルになってしまい、作者がイメージを奪還しようとする一連の顛末を追ったドキュメンタリー。

ペペのビジュアルは全然馴染みなかったし、所詮他国の話かと思ったら全然そんなことなかった。
ネットミームって言葉さえ普及してないけど、日本人は馴染みのある概念だと思う。
日本でいうとこのネタ画像、雑コラ、コピペなどにあたるはず。
有名なやつだと、「チャリで来た」とか「ラーメン三銃士」とか、キャラクターでいうと2チャンのモナー、ギコ猫辺りかな。
雑コラとか安易にいいねしがちの自分みたいな人間にとっては滅茶苦茶刺さる映画だと思う。

今回のペペはマット・フューリーの同人誌的な漫画「ボーイズ・クラブ」の主人公。
その作品の1コマがたまたま、アメリカの匿名掲示板「4chan」で熱烈な人気を得てしまう。
その割にほとんどの人が元ネタを知らなかったり、知ったとしても作品自体には興味を持たないのも日本のそれと重なる。

なぜ、白人至上主義や陰謀論者のアイコンになってしまったのか、そのプロセスが興味深く描かれる。
とにかく、トランプ陣営はネットミームであるぺぺの存在を巧みに政治利用した。
4チャンネラー側も最初はネットの悪ノリだったはずが、次第にトランプこそ自分たちの非リアの代弁者だと心酔していく過程が心底怖い。

本作を観ると、著作権って利益を守るためだけじゃなく、政治的不本意な使われ方から守るためにもあるなと思った。
ぺぺは同人誌的なコミックでのキャラだったから、ネットミームなど厳しく取り締まらなかった。その結果が政治利用され、ヘイトのシンボルとなってしまった。

著作権フリーで誰でも利用できる芸術文化ってこういう風に政治的に利用される可能性が大いにある。
最近だと星野源の「うちで踊ろう」とか取り組み自体は素晴らしかったんだけど、ある意味政治的な意図で使われてしまったし。
本作でも作者自身は政治的な意図は全くないのに、自分の預かり知らないとことでどんどんヘイトの象徴になっていく。
どんなに取り戻そうとしてもぺぺの悪質なミームは止まらず、次第に作者自身が追い詰められていくところはミーム文化の恐ろしさを端的に描いていた。

また、ぺぺの一連の問題には格差社会やニート問題があ背景にあって、既視感しかなかった。

例えば匿名掲示板「4chan」で流行ったペペのネットミームをセレブや陽キャたちがInstagramで使いはじめて、
怒り狂い、ぺぺの攻撃的なミームを大量生産し、あげく暴徒化して、実際に発砲事件を起こしてしまうなど洒落にならない事態が起る。
これはミームの文脈とは離れてしまうけど、ニートなど社会的な弱者、言い換えれば非リアたちのリア充の妬む構造は日本にもある。
ひと昔前にあった「クリスマスを中止せよデモ」とかエスカレートしたら本作で描かれていたような事態になるのでは…と末恐ろしい気持ちになった。
(最近、「くたばれ、大学生」という漫画を読んだけど、後半で似たような展開があった)

この手の内容が全く他人事とは思えないん何せ学生時代脳内で勝手にヒエラルキー図を作って、キャンパスライフを楽しそうに過ごしていた人間を目の敵にしていたから。でもきっとリア充側は自分のような人間なんて眼中にないんだよなあ、きっと。勝手に卑屈になって、勝手に被害者意識を持って、あげく「俺はお前らとは違う」と選民意識を持ってるだけであって。そういう痛い奴の自尊心とかを上手く刺激して、扇動され、政治利用されているところを見せつけられた。薄氷一枚で普通の人生を歩んでいるだけであって、こうなる道もあったかもしれないとぼんやり思った。

1個のネットミームがひたすら暴走していく様を描いた恐ろしいドキュメンタリーだった。
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