チーズマン

ボクたちはみんな大人になれなかったのチーズマンのレビュー・感想・評価

4.0
この映画での現在軸の出来事って、佐藤(森山未來)がコロナ禍で人のいない夜の東京の街を歩いてるだけの話なんですよね。
街を歩きながら、その街での過去の記憶が蘇るポイントを通る度にその都度過去を回想していくわけですが、その回想が全く時系列順じゃないのが新鮮というかリアルでとても良かったです。

その街での場所場所で思い出も違うし自分の年代も違うしシャッフルされてるのが普通ですもんね。

で、コロナ禍で誰もいない夜の街ってのがまたすごく良いんですよ。
佐藤が自分の過去、“美し過ぎる普通の思い出”に向き合うのに、思い出と時間の流れの両方が刻まれた「街」と「自分」とが向き合うのに誰も邪魔者がいない感じで。

その“美し過ぎる普通の思い出”に囚われてしまっている自分が一晩歩いて辿り着いたとある場所と、つぶやいた言葉、これにはグッと来ましたね。
佐藤が前に進むためには、その言葉を自分の口から出して受け入れるしかないですからね。

あと90年代若者ファッションとか世紀末の時代の空気感とか小物とかが、あの頃ちょうど小学生ぐらいの時に背伸びして憧れていた世界が再現されてたようで心の奥がザワザワしました。
90年代後半の歳上の世界がなにやらカオス味があって刺激的で早く大人になって飛び込みたいと思ってましたし、割と周りもそんな感じでしたね。
そんな自分にとっては、90年代のよくある暗くダークなイメージではなく、逆にアグレッシブで美しく描くのは個人的しっくり来ました。

ステッカーだらけで汚い自販機とかもね、ある意味美しいんですよ。笑
ていうかあの時代はとにかく街の至る所に勝手に色んなステッカーが貼られまくってましたね。

で、そんな時代にまさに若者としてモロに浴びてきた佐藤にとってのこの時の記憶、ってことを考えると過去の思い出の「普通と特別」があまりに強固に重なってしまうのも分からなくもないですね。
チーズマン

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