幽斎

星の王子ニューヨークへ行く2の幽斎のレビュー・感想・評価

3.0
恒例のシリーズ時系列
1988年 3.8 Coming to America 今考えるとJohn Landis監督の頂点かも
2021年 3.0 Coming 2 America 本作、正統な続編

Eddie Murphy、61歳。世界で最も人気のある喜劇俳優の1人、最も商業的に成功を収めたアフリカ系アメリカ人。2007年「ドリームガールズ」アカデミー助演男優賞ノミニー、ゴールデングローブ助演男優賞。エンパイア誌「100人の偉大な映画キャラクター」55位。ハリウッド映画賞功労賞。フォーブス誌「最もギャラを貰い過ぎた俳優ランキング第1位」いやぁ、凄い人ですよ(笑)。

私のベストは「ビバリーヒルズ・コップ2」かなぁ(2限定)。Tony Scott監督の昔の言葉で言うスタイリッシュな演出が最高にカッコ良かった。此の作品の前年に公開された「トップガン」よりも演出面で成長の跡も見られた。共演したデンマーク美女Brigitte Nielsen、つまりSylvester Stalloneの嫁とMurphyとの仲がスクープされ、後にScott監督との不倫もバレた。ビバ2の冒頭の強盗襲撃シーンは、今見てもダンサブルな編集が素晴らしく、音楽との相乗効果を意識する監督のセンスも凄みが有った。此の作品の翌年に公開されたのが「星の王子 ニューヨークへ行く」。この頃はMurphyの新作が毎年、日本で観られる凄い時代。

彼の場合は立身出世が過ぎて勘違いして周囲から嫌われる、と言う話が聞こえてこない稀なスター。彼の特長は特殊メイクを駆使し、女性や老人、白人等の役が定番で、外見を模倣するのみならず、人種や年齢の特徴を捉えた演技がウケた。架空の王国「ザムンダ」もモチーフに成ったガンビアとかセネガルのアフリカ諸国でも映画は好意的に受け止められ、現地でも大ヒットした。

現在はセミ・リタイア状態の彼が、ハリウッドでも5本の指に入るプロデューサー、John Davisに声を掛けられた。因みに父親は20世紀フォックスの元オーナー、だから「プレデター」は誕生した。コメディ伝記映画「ルディ・レイ・ムーア」メジャーでは買い手が付かず、Netflixに買い叩かれたがソレが功を奏してMurphy健在をハリウッドにアピール出来た。調子に乗ったMurphyは、メジャー・パラマウントに電話をする。

それが「星の王子 ニューヨークへ行く」続編を作ろうよ。いやいやいや、確かに2017年~2018年に掛けて企画は進行したが、現在のコンプライアンス的にも無理だし、そもそも赤字覚悟でとても採算は取れないと二の足処か三の足状態。しかし、「ルディ・レイ・ムーア」Craig Brewer監督の強い推薦も有り、Murphyがプロデューサーとして資金を担保、パラマウントは「交換条件」を付けて決定。本作はMurphyの個人事務所が製作。

レジェンドのMurphyの要求を無下に断れないほど、彼はパラマウントに破格の貢献をしたので、本作は採算度外視でオリジナル・メンバーを全員集結させる大盤振る舞い。レビュー済「スパイラル:ソウ オールリセット」の都合でSamuel L. Jacksonは欠席したが、穴埋めをMorgan Freemanが務めるのだから、やはりギャラよりもMurphyの人望がモノを言う。ダース・ベイダーことJames Earl Jones、91歳もお元気で何よりだが、撮影当時88歳。アトランタのスタジオに来て貰う事は健康状態を考えると宜しくないと、彼の自宅近くに有るテレビ局のステージで出張撮影、この程度の合成は朝飯前。

当初は2020年サマー・シーズン公開予定が、北米を襲うCOVIDの影響で劇場もロックダウン、パラマウントは窮地に追い込まれる。採算度外視を承知で創られたので、元だけでも取りたいパラマウントは監督繋がりでNetflixに売却を提案、しようと思ったらMurphyが「Amazonにも聞いてみなよ」、電話を貰ったAmazonスタジオは破格の1億3000万$で買い取り配給権を独占。パラマウントも資金を出したMurphyも救われた。因みにパラマウントが出した交換条件は「ビバリーヒルズ・コップ4」大丈夫かなぁ~(笑)。

私は本作を観て改めて、彼は賢い人だなと思う。彼がハリウッドから半隠居状態の間に、黒人を取り巻く環境は大きく変化した。移民問題、白人の貧困化に端を発する社会の「分断」はDonald Trump大統領を誕生させ、更に精鋭化。白人への逆差別と相反するBlack Lives Matterはヘイトクライムとして、映画のテーマとして数多くの作品も生まれた。

アフリカ系アメリカ人のレジェンドの彼は、お喋りが上手な割に(笑)、この件に関しては沈黙を保つ。既にリッチ・ピープルで稼ぐ必要が全くない彼が本作を創った真の目的も透けて見える。脚本にも静かに反映され、前作が純粋に愛する人を捜す為にニューヨークに向かう。古い価値観とか伝統に「異人」ザムンダ王子として、囚われない姿を見せた。

本作では一見すると慣習に囚われ自己保身にも見える。「何百年も続く伝統を守る事が正しい行い」と言うMurphyだが、妻のリサから「正しいとは家族?、それとも国?」と問われると返す言葉を失う。前作とは異なり、ジェンダーに踏み込んだ不平等を、台詞と演技でしっかりと伝える。長女ミーカ役で印象的なKiKi Layneが父の跡を継ぎ国王に成ろうとしても、女性には王位継承権が無い理由で拒まれるのは、その最たるモノだ。

そろそろお開きにしたいが、続編が必要不可欠かと言われれば答えは「No」。本分で在るパンチラインも弱いし、もっと風刺を攻めた作品が観たかった感も残る。アメリカのレビューを見ても「振り切れて無い」「寧ろ日依ってる」と散々だが、それは無理な相談と擁護したい。同じブラックスプロイテーションを描いた「ブラックパンサー」が「星の王子 ニューヨークへ行く」をパクったとは言わないが、それは亡く為ったChadwick Bosemanも同じアフリカ系アメリカ人だから。ブラックパンサーに対しても、小綺麗で毒気の抜けたシロモノ見せられても、的な下町ジョーク全開。とは言え肝心な若い世代の黒人に本作は「お呼びでない」事は間違いない。

需要不明だけど見れば其れなりに面白い、ブラックカルチャー初心者でも大丈夫!(笑)。
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