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チェリーのdojiのレビュー・感想・評価

チェリー(2021年製作の映画)
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戦争から帰ってきた若者たちの不安定なこころを、手軽に手に入ってしまう薬物が蝕んでいくというアメリカの現実。戦争も薬物も、こんなにも距離が近いものなのだということがなによりおそろしいし、イラク戦争のおいて、国に対しての“service=お勤め”が、目的のない若者たちの手っ取り早い社会との接点になってしまったことが、たぶんこの映画の原作で描かれている人物のような例がおそろしいほどたくさんいるのだなと思う。

アメリカの現実を映画の中のフィクションで描くことを、ルッソ兄弟はMCUの中で繰り返しやってきたのだけれど、本作でいよいよアメリカンコミックの文脈も、スーパーヒーローという大前提を取っ払った映画づくりのちからを発揮できるのかなと思いきや、演出としては映像的なスタイリッシュさは一昔前の定型のように感じさせるし、時系列を組み立てる編集にも、あまりオリジナリティがあるとはいえない作品で、残念ではあった。

とはいえ、やっぱりここですごいのトム・ホランドの演技がものがたりの中心でなってすべてを動かしているところで、純真さの中にある暴力性と弱さを、複雑なまま表現できているのがすばらしい。スパイダーマンがおもしろいのは、彼のキャラクター性だけじゃなくて、たしかな演技力によるものなのだと、逆にこの映画でわかったのはなんともいえない収穫でもある。

ルッソ兄弟はこれからアクション映画の予定が続いているようだけど、「arrested development」みたいなゆるい群像コメディとか撮らないのかな。アベンジャーズって、群像劇であることに彼らの特性が生かされていたようにも思うから。
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