つるばみ色の秋津凡夫

名もなき歌のつるばみ色の秋津凡夫のレビュー・感想・評価

名もなき歌(2019年製作の映画)
2.5
リバイバル

経済混乱が渦巻き、政情不安に揺れる80年代のペルーを舞台に、乳児売買組織によって生まれたばかりの我が子を奪われる母親の物語は、当時のブラウン管テレビを想起させるエッジがぼやけた4:3アスペクト比フレームの白黒画面に映されています。
そこには自身が直面した地獄の記憶から適切な距離を取り、メガホンを握りしめる監督の姿が浮かび上がるようでした。
監督の父親は、まさに乳児誘拐事件をスクープした記者の方だそうで、そこから30年以上経て娘が受け継ぎ、世界に再発信した本作はサスペンスフルな社会派映画としても、個人の内面を見つめる人間ドラマとしても素晴らしいものになる筈でしたが、手を差し伸べる記者の同性愛設定など、真偽不明の社会的弱者なるものを過剰に無理に半端に組み込む賞レース狙いの節操のなさに感心させられる結果に終わりました。
当然ながら娯楽要素は皆無でありますし、物語としては微妙な本作ですが、建築物と人物を絶妙なアングルで捉えたショットが人間の尊厳を影絵のように美しく浮かび上がらせ、私の視覚中枢を4度楽しませてくれたので良作と評させて頂きます。