イチイ

Mr.ノーバディのイチイのネタバレレビュー・内容・結末

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

小さな工場で会計士として働くハッチ・マンセルは、平凡で代わり映えのしない毎日を送っていた。ある晩、自宅に強盗が侵入。息子が反撃を試みるが、無抵抗を選んだハッチがそれを制止したため逃げられてしまう。無力な父親に家族は失望し、同僚や隣人からも嘲笑われる。ところが強盗が娘が大事にしていた猫ちゃんブレスレットも盗んでいたことから、ついにハッチは我慢しきれず反撃に出る。

いわゆるナーメテーターものの基本的な形式を踏襲しているが、似た話の繰り返しのならないようきちんと捻りがあって悪くない。暴力的なトーンの中にも暗い笑いが効いていて緩急の付け方もいい。ただ、工夫もされておるが、後半はいつも通りのアクションでいささか単調。92分とタイトにまとまっているが、続編狙いの作りでいささか薄味になってしまったように思う。

ナーメテーター映画の場合、静かで地味な生活の中にも大切なものを見出していた中高年の男が、その大切なものを奪われて復讐のために秘めていた力を解放するという展開が基本だろう。本作もそれらしい始まり方をするので果たして何が奪われるのかと考え、特にハッチ愛する娘の出てくる場面では緊張もした。ところが実際に奪われたのは娘のおもちゃで、猫ちゃんブレスレットを返せ!と激昂するハッチには笑えないのだが笑ってしまった。

その後の展開もハッチ自身の行動がきっかけに起こっていくように、ハッチは本当は暴力を奮いたくて仕方がなかったのだ。ここが理不尽な暴力に対抗するため仕方がなく復讐するというナーメテーターものと違うところで、これはむしろ『ウォルター・ミティの秘密の生活』のような忘れていた本当の自分を取り戻すという話に近い。

それだけに後半の本当のスキルを活かして対抗する展開に、ハッチの謎の過去が重ね合わされて行けば「本当の自分」を取り戻す話としてさらに面白くなったと思うのだが、残念ながら続編のためにそうした要素は先送りにされてしまっている。サブキャラクターの扱いも同様。シリーズ化狙いもいいのだがまずは一本の中できちんと描き切って欲しいと思った。家族の描写も平板なのでもう1本観たいほど惹かれるかというと微妙なところ。
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