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モーリタニアン 黒塗りの記録のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.6
 たまたまゴールデングローブ賞の授賞式の動画を見ていたら、助演女優賞を受けたジョディ・フォスターが自宅のベッドからおしゃれなパジャマ姿でズームで参加し、同性のパートナーやワンちゃんと歓びを分かち合っていた。
 それがこの作品で、彼女の役柄は実在の辣腕の人権派弁護士ナンシー・ホランダー。白髪に真っ赤な口紅とマニキュア、力強いきれいな目。素顔の彼女よりもシワが強調されているようだけれど、私はカァッコイイとすっかりミ〜ハ〜してしまったのだった。

 主役はタハール・ラヒム扮するモーリタニア人のモハメドゥ・ウルド・スラヒ。奨学金でドイツに留学、エンジニアとなるも、アラブ人・高学歴・アフガニスタンでアルカイダから戦闘訓練を受けた過去等の条件から9・11の容疑者としてキューバの米軍基地グアンタナモに収容される。
 ホランダーは無償奉仕活動として彼の弁護を買って出るが、公開された情報はほとんど黒塗り。片や彼を死刑第1号にと望む政府が抜擢した米軍法務官のカウチ中佐(ベネディクト・カンバーバッチ:プロデュースのみならず、脚本を読んで出演)も奇妙な「機密」の壁にぶつかっていた・・・・・・。

 カウチ中佐は9・11で友人が殺されたこともあり、ホランダーに対して、よくあんな悪魔みたいな人間を弁護できるものだ、という意味の言葉をぶつける。彼女の答は「私は〈法の支配〉を擁護しているの」。
 やがてふたりはそれぞれのルートで真実を知る。モハメドゥは70日間も酷い拷問を受けて虚偽の自白をしていたのだ。これでは起訴はできないとやはり〈法の支配〉に忠実であろうとしたカウチ中佐は解任され、「裏切り者」とさえ呼ばれる。

 モハメドゥは一旦は釈放を勝ち取ったものの、米国政府は上訴、彼の拘束は結局14年に及んだ。その間にモハメドゥはホランダーの勧めで手記を執筆、それは検閲で千単位の箇所が黒く塗りつぶされたまま出版され、20カ国で翻訳された。

 映画の最後にモハメドゥ本人が人懐っこい笑顔で登場する。彼は独学で英語を身につけ、文才もあり、ユーモアや寛大さを失わずに生き抜いたのだ。
 監督は本作を「娯楽映画」だと明言しているという記事があった。私が見たインタビュー動画でも監督は、モハメドゥ自身がスターが出るメインストリームの映画として作ってほしいと望んだと語っていた。彼は虚偽の自白をした後、獄中でDVDを見ることが許され、基地の若い兵士たちが好むお気楽に笑えるアメリカの〝娯楽映画〟を山ほど見ていたのだとか。
 エンターテインメントの力が侮れないことをモハメドゥは身に沁みて知っていたのだろう。
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