幽斎

TUBE チューブ 死の脱出の幽斎のレビュー・感想・評価

TUBE チューブ 死の脱出(2020年製作の映画)
3.8
スリラーで最も高い人気を誇る「ソリッドシチュエーション」私の大好物(笑)。「SAW」未だに更新されない私の生涯1位作品ですが、目覚めたら異空間に閉じ込められる設定は、創るのは簡単だけど難しい。未体験ゾーンの映画たち2022、シネリーブル梅田で鑑賞。

原題は製作国フランス語「mēˈandər」、国際版は「Meander」。意味は畝ねる、迂曲。邦題が示す通りプロットは最高傑作スリラー「CUBE」。日本でも公認リメイクされたが、邦画は年に一本しか見ない人なので、詳しい友人に聞いたら「見る価値ナシ」吐き捨てられた(笑)。CUBEは1つのセットを使い回した位、ソリッドだったが、多くのパチモンが製作されては撃沈した。SAWが秀逸なのは密室と外界とのダブル・レイアーなクローズド・サークル。CUBEの亜流で合格なのはRyan Reynolds主演「リミット」。

Mathieu Turi監督はレビュー済「クリフハンガー フォールアウト」出演したBrittany Ashworth「ホスティル」長編デビューで、シッチェス映画祭をザワつかせた。Quentin Tarantino監督「イングロリアス・バスターズ」。Luc Besson監督「LUCY/ルーシー」等のアシスタント・ディレクターを長く務めた叩き上げ。YouTubeに短編をUPして映画祭のコンペに出展する若手が多い中で苦労人と言える。

新作で注目される監督の多くは、映画学校の様なキャリアを積まずに才能だけでデビューする人も増えた。クリエイティビティな意味では時代の流れだが、監督はプロジェクトの指揮官でも有るので、人間関係が構築出来る人でないと一発屋で終わる事も多い。レビューをご覧の方は映画好きで間違いないが、例えばアシスタント・ディレクターとセカンド・ディレクター、どちらが立場が上かご存じだろうが、映画を観る時は、時にはエンドロールにも目を向けて欲しい。

カンヌで生まれたフランス人の監督は「遊星からの物体X」を観て、この世界に飛び込んだそうだが、私が最初に感じたのは、プレイステーションの様なゲームをモディファイした印象。監督はインタビューで日本の小島秀夫のファンだと公言したので、何の事かと調べたら「メタルギアシリーズ」生みの親。確かにブレスレットの照明は「ライフ」を意味し、トラップに「火」「水」と言った人間臭いアプローチもゲーム感覚と言える。因みに火のトラップは実際に点けたらセットが燃えてしまったらしい(笑)。

主演Gaia Weissはフランス出身のモデル。Renny Harlin監督「ザ・ヘラクレス」アメリカ・デビュー。「スクランブル」Ana de Armasと共演、本作が主演デビュー作。次回作はイタリアの名女優Greta Scacchi共演のスリラー「Shepherd」。最新作はイギリス映画「Victims」サイコ・スリラーで今後も楽しみ。スリラー目線で言えば、彼女の髪が編まれてるのが不可思議とか、着てるスーツが妙にスタイリッシュで違和感有り捲りだが、ゲームのインスピレーションと聞いて納得。

フランス産なので、オチから逆算したソリッドシチュエーションで終わらないと思ったら、その通り。キューブでもチューブでも無い、ダクトの様な細い通路は人生を投影して、どんな困難が訪れようとも一歩ずつ前に進まないとイケない。幼い娘に死なれた喪失感とシンクロさせる事で、日本人の死生観「人生は艱難辛苦」不条理な世界観は、とてもおフランスらしい表現手法、お笑いゼロな点にも独創性すら感じる。

ラストはキリスト教的な解釈で言えば「煉獄」。困難に苛まれながら、もがき苦しんだ心は癒され、新天地で自己再生。そう考えると彼女が辿り着いた先は容易に想像できる。フランスのスリラーなので、結末の解釈は相変わらず投げっ放しですが、答えは冒頭で流れる歌。「Through the Valley」Shawn Jamesの代表曲、エンタメをお気楽に消費物として扱わない、フランスのエスプリも感じて欲しい。
https://www.youtube.com/watch?v=xXcKSLijghs&ab_channel=ShawnJames

「死の影の谷を歩もうとも私は災いを恐れない」旧約聖書の詩篇的ノーブル・スリラー。
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