大一

竜とそばかすの姫の大一のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
5.0
個人的にこれまでの細田守作品でテーマ性が一番強い作品だと感じた。それは、「インターネットの世界での出会いを通しての少女の成長」である。
もちろん、たくさんの人たちが言うようにヒロインのすずを演じる中村佳穂による歌や数々のクリエイターの力を集結させた映像美も素晴らしいが、映画としての少女の確かな成長に胸を打たれた。

すずは幼少期に母親を亡くしており、そのことから自分に様々なコンプレックスを抱えて生きる等身大の女子高生として登場する。昔から好きな歌も心が蓋をして歌えない。学校でもキラキラ光る幼馴染やクラスのマドンナ的存在に憧れを抱いては自分と比べていた。そんな中でインターネット世界『U』の存在を知り、もう1人の自分として生き始める。
『サマーウォーズ』の仮想世界Ozの延長線上に作られたような『U』の世界はより美しく壮大になっている。しかし、現代のSNSを知る自分にとってOzの世界に感じたワクワク感というよりは、より現実的に今の現代社会に接続された設定として捉えることができた。全ての人たちが自分を隠しもう1人の誰かとして存在し、心ない誹謗中傷もあれば、一躍大スターへと駆け上がることもできる。作中にもあるように"世界を変える"ことができる。ただこの世界の意味は奥の人が存在するこの世界を変えるというよりは、自分の生き方を変えることができる自分にとっての世界という意味合いが強い。
すずは歌姫Bellとして名を馳せるが、彼女を取り巻く世界はそれまでと何一つ変わらないのだ。父親とは相変わらず微妙な距離感があり、幼馴染からは心配をされ、そのことで学校の女子同士でいざこざが生まれるような、どこにでもある風景が描かれる。ただ、すず自身の世界として大きく変わったのは竜との出会いである。
Uでは嫌われ者として名を馳せていた竜と出会い、どこかその正体を気にかけてしまうようになる。いざこざを避け、自分が心を許せる親友とだけ関係を築いてきたにも関わらずUでは見ず知らずの誰かを知ろうとしていた。その出会いが物語としても大きく2人を変えていく。
そんなインターネットの世界での出会いと変化を描きながらも、現実での繋がりもしっかりと描いてくれているのがすごくよかった。合唱隊の人達や幼なじみの忍君はベルの正体を見抜き(おそらく歌声から?)ながらも常にすずに寄り添ってくれる存在であった。特にクライマックスにすずを思うからこそ背中を押してくれる忍君の言葉に泣かされた。そしてUの世界とは関係なく繋がった快い友人達もすごくよかった。ぎこちなさが残る高校生の会話のシーンも微笑ましい。
すずの成長の過程で欠かせないのが親と子の繋がり。サマーウォーズでは親戚という形で描かれ、それ以降では逆に作品の根幹として描かれてきた細田作品のテーマの1つだが、今回はとてもさりげない。だが、物語の大きな要素として描かれる。母と子、父と子、家族とは何なのか、親とは何なのか、子どもはそれをどう繋いでいくのか、様々なことを考えてしまう深い要素が今回の作品の中には多かった。

まだまだ描き足りないこの作品の魅力があるが2回鑑賞してもうまくまとめきれないのでこの辺に。
大一

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