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竜とそばかすの姫のEMのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

細かいことを挙げるときりがないですが、
とにかく脚本と構成が滅茶苦茶なのが酷い。

展開やキャラクターたちの感情の起伏に脈絡が無さ過ぎて、感情移入するどころか疑問ばかりが募って物語に集中出来なかった。

ここまでツギハギな仕上がりになってしまったのは、ここ最近ではっきりわかってしまったが細田監督の脚本能力の限界だと思う。
また、ここ最近の世間の急速な価値観のアップデートに監督自身がついていけていない。いまさら自身の価値観なんて簡単に変えられないのだろうけれど、積み上げて築いた知名度やブランドの大きさに、自らがついて行けていないのが見ていてなんとも虚しい。
監督・原案に徹して、脚本作業はそれに秀でた方に任せたほうが作品のクオリティは絶対にあがるだろうに。


また、これは作品に対してではないですが、映倫の基準はどうなっているのか少し疑問。
最近の大作だとテネットでも一部で問題視されましたが、執拗なDV描写に対してはPG12くらいは付けても良いと思う。
ああいう描写を規制しろなんてことではありません。
ただ、ああいう描写に抵抗がある方への予備知識は大事だし、なにより子供に対しても助言なしに見せていいものとも思えない。
当事者になったことのない自分でも少し恐怖感を覚えるのに、少しでも被害にあった方のトラウマを非常に刺激すると思う。
性描写やグロ描写だけに重きを置くのはそぐわない気がしています。


Uは「現実はやりなおせないけどここではやり直せる」「なりたい自分になれる」というコンセプトのはずなのに、実の所アバターとの身体シンクロ機能があるだけで今のSNSと特に何も変わらないのが少々つまらない。
結局皆Uの世界でも現実の人間の方に興味を向けていて、Uの世界の意義とは?と疑問。

タイトルにまで入れている「そばかす」の扱いも雑。
特に物語において何のキーにもなっていないし、鈴の内向的さは容姿のコンプレックスからではなく母の死から起因したもののはず。ただ内気で地味な女の子のテンプレ要素として記号的に扱っただけなら、あまりにも感覚がアップデート出来ていない。

途中の美女と野獣のオマージュというよりは、下手な模倣のようなシーンは止めてほしかった。
30年も前の作品である本家を映像的にすら超えられていないのに、せめてお城・薔薇程度のオマージュでよかった…ダンスまでさせた意図がわからない。


ヒロちゃんの台詞回しが全体的に攻撃的なのは何故なのだろう。毒舌というよりは特に鈴への言葉は暴言に近いものが多く、悪意のあるなし関係なく少し不快だった。
「ズケズケいうオタクな女の子」のイメージを下げたいのか何なのか…親友というポジション付をするならもう少し「毒舌」としての練りようがあったと思う。
予告にもあった「元の弱い自分に戻っていいの?」という台詞。あれはてっきり鈴を後押しするものだと思っていたのに、まさか真逆のニュアンスだとはおもいもしなかった。
もちろん本来の姿を晒すか?晒さないか?の葛藤の描写は必要になるが、それは鈴の内側の描写でよかったのではないか。わざわざ、しのぶくんとヒロちゃんに言い争わせてそれを表現したのは何故なのかと少し疑問だった。
親友ポジションであるはずのヒロちゃんにやたらと下げセリフを言わせていたのがとても印象に残ってしまったので。


やりたいことというよりは、社会的なテーマを適当に詰め込み過ぎて何も消化出来ずに終わっていて非常に稚拙に感じる。
重いテーマを盛り込めば、深いストーリーに見えるし感動するでしょう?みたいな意図が透けて見える。

インタビューで「恋愛やアクション、サスペンスの要素もありつつ、一方で、生と死という本質的な大きなテーマもある」と語っていたが、
明確に意図的に生と死をテーマに盛り込んだのなら、責任を持って描いてほしい。

特にネットリンチや、虐待は現代社会においても非常に重大な問題。
それをテーマとして脚本に盛り込むからにはそれなりに責任を持って描くべきなのに、

特に虐待問題に関するアンサーがあまりにも軽すぎる。

何故大人が最後に一切関与しない?
何故子供だけが頑張る?
鈴が決めたことだから…じゃないだろう。
大人がここで出張らないでどうする。
ケイたちは孤立してしまっているが、少なくとも鈴は周りを善良な大人に囲まれているのに。

あの虐待描写は明らかに命の危機まで感じさせるものだった。それなら救出に向かう描写も真に迫ったものにするべきだ。
あんな女子高生ひとりだけでどうにかするファンタジー描写はあまりにも無責任。

特に、最後ケイに「俺も戦うよ」(うろ覚えですが…)的な事を言わせた事が非常に遺憾。
彼はずっと弟を守って十分過ぎる位に戦ってきたのだから、あそこは大人が『もう頑張らなくてもいい』と言ってあげるべき所なのに、子供たちだけを抱き合わせてどうしたいのか?

つまらなかったな…と思う映画は個人の趣向なので数多あるけれど、脚本に不快感を感じたのは久々。


扱うテーマには責任を持って欲しい。


冒頭のUのイントロ映像、
ベルのライブシーンと歌声はとても良かったです。
カミシンとルカちゃんのシーンはほっこりしました。
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