オーウェン

アポロンの地獄のオーウェンのレビュー・感想・評価

アポロンの地獄(1967年製作の映画)
4.0
この映画「アポロンの地獄」は、スキャンダラスな死を遂げたピエル・パオロ・パゾリーニ監督が、人間の根源的なるものを抉ったスキャンダラスな作品です。

父を殺し、母を犯すという人間社会の本質的なタブーをテーマにした、ギリシャ悲劇「オイディプス王」はあまりにも有名ですが、いかにも荘厳にもっともらしくやられる劇を見慣れた者には、この映画のもつ粗野さは大変衝撃的です。

この映画は、ギリシャ神話で有名なオイディプス王の伝説を、現代的な視点から鮮烈な映像美で描いた問題作だと思いますね。

不吉な運命の予言を背負ったオイディプス王が、そうとは知らずに父親を惨殺し、母親と関係する。
その後、地獄に落とされ、真実を知ったオイディプス王は、自分の両眼を抉るという異常な物語なんですね。

なんともびっくりさせられたのは、テーベの町の人々を恐怖のどん底に落とし込むスフィンクスの造形です。
なんというか、アフリカのシャーマンという感じで、およそギリシャ悲劇のイメージから遠いものがあります。

どうしてもお上品ぶった神を、土俗信仰のシャーマンの次元に引きずり下ろしたことによって、人間の、神や運命に対する恐れというものが、より赤裸々に出たような気がします。

そしてまた、王家の人々も、決して豪壮なお城に鎮座しますお偉いさんといった風ではなく、まるで部族の族長といった感じなのです。

これは何もパゾリーニ監督が、奇をてらったのではなく、人間と人間のつながりを、より素朴なところから問い直そうとしたからでしょう。

まさに、文明の初源の姿です。だから、タブーと信仰という、なんとなく、わかったつもりになっていた問題を、一種の荒々しさでもって納得させてくれるんですね。
オーウェン

オーウェン