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スペンサー ダイアナの決意のbaobabunokiのレビュー・感想・評価

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実話の悲劇に基づいた寓話、映画がもたらす“フィクション”、“物語”としての力とそのクリエイティブ性や独自性を最大限に生かした映画であったし、完璧だった。

クリステン・スチュワートが演じるダイアナは、彼女の魅力、動作や話し方をそのまま切り取ったみたいだったし足の上げ方や手を洗う動作、車から降りる時などもすごくすごく本物(本物ではないけど)に近くて始まって数分で泣いた。サリー・ホーキンスも同じく、今回の映画では演技によってどこまで観客を圧倒させ、今は亡き人物の心情、見えない背景を見せるかに拘っていたと思う。

撮影監督、衣装デザイン、ヘアメイクデザイン、作曲の方々を見ると、どれも好きな映画で強く印象を受けた人たちだったし、「スペンサー」はそうした人たちの個性や技術を全て詰め込んだ映画..... (燃ゆる女の肖像撮影監督、ファントム・スレッドの作曲で全てを理解、衣装の色と色の壁紙の色や床の色とのマッチングも最高だった)

彼女だけが感じていた孤独や息苦しさや、母としての葛藤、一人の女性として、など色々をセリフによる説明ではなく、モデル像や英国王室の象徴、その世界や伝統が関係していて何があって、何が彼女を苦しめるのか、などを丁寧に描いている。一つの一つの動作やカメラワーク、家の構図を利用した撮り方でひきこまれるし、息子達の立ち位置の描き方も皮肉的で現実的。

今は亡きダイアナの彼女の生き方や辛さ、その覚悟や信念を“フィクション”として描きながらも、彼女という一人の人間を肯定し、正しく、誰かに嫌われたって、認められなくたっていい、伝統が創り上げてきたもの、伝統に従わずに逃げること、そして英国王室の中でも彼女を守ろうと、寄り添った者、潰そうとした者。

余韻に浸りながら、この映画の美しさや残酷さ、苦しさに考えてしまい大きいため息がでてしまう、、。すっごいしんどいけど、救いの映画でもある
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