久保坂涼

戦場のメリークリスマス 4K 修復版の久保坂涼のレビュー・感想・評価

5.0
「美、人はそれに酔う」

美の象徴は、デヴィッド・ボウイ。まさにカリスマそのものである。

醜の象徴は、日本軍である。

果たして、美は醜の中で如何ようになっていくのか?

まるでそれを検証するかのように物語は牽引されていく。そして、当然の帰結を迎える。

美は儚い。

ボウイは異地に降り立った美の化身である。唯一無二の存在であるがゆえに、人々を酔わす。が、酔いはいつか醒める。そのとき、人々は別の快楽に酔う。暴力である。その対象は言うまでもない。無力であり味方すらなき孤独の存在である。人々が酔う。美は天に召されるのである。

美に憧れ、美を愛する坂本龍一は、ただ見つめることしかできない。何故なら、彼は美に心を奪われているから。だから、何かを為すことすらできない。じっと凝視する。カリスマを。

「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス!」

果たして誰が「メリー・クリスマス」の対象であるのであろうか。誰がクリスマス・イヴの対象なのであろうか。
その人は、そのカリスマゆえに死ななければならなかった。暴力を受けた末に。

この作品のラストシーンは当然の収斂の末に現れる。

北野武は言う。
「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス!」

しかし、彼は気づいているであろうか。

誰がその人であるのか。
誰がそのカリスマであるのか。

クリストファー・ノーランは、この作品で「ボウイのカリスマが確立した」とコメントしている。

僕にも何ら異議はない。
久保坂涼

久保坂涼