ゴダール、マーティンスコセッシ、クリストファーノーラン、世界中の映画監督から称賛された大島渚監督の代表作。
たしかノーランが「私の中で最高傑作のひとつだ」的なことを言っていた気がする。
ベルナルドベルトルッチはあの有名なキスシーンを「世界で一番美しいキスシーンだ」と言った。
戦争映画で大胆なアクションがない、小規模の戦闘シーン以外描かない映画は「野火」などいくつかあるが、いっさいの戦闘シーンがない作品。
それぞれの国の倫理観、宗教観、道徳観がぶつかり合う軍隊と捕虜の生活。
乱暴者だが根は優しいハラ軍曹。
日本での生活も長く、英国や蘭軍の捕虜と日本軍の間で奮闘するローレンス中佐。
英国人としての誇り高くハラやヨノイとぶつかるヒックスリー大佐。
そして物語のキーマンである不思議な男セリアズ少佐。
自分にも部下にも敵兵にも厳しく、常に日本人としてぶつかるも、セリアスの不思議な魅力に取り憑かれていくヨノイ大尉。
様々な人たちが時にぶつかり時に受け入れ合いながらセリアズによって引き寄せられていく。
この映画の名シーンといえばやはりセリアズが花を食べるシーン、ヒックスリーを斬ろうとしたヨノイの頬に英国風のキスをするセリアズのシーン、そして最後のハラのあのシーンだろう。
こんな美しい戦争映画は全世界探しても無いであろう。
だいたいの戦争映画はどうしてもどちらかの国が正義であるとかどちらかが悪であるとか二元論になりやすい。
だが、この映画は戦争という国と国がぶつかる中において壁が溶けていくように混ざり合う。
壁を壊すわけでもなく乗り越えるわけでもなく溶けていくように絡まっていく。
昨今、映画界にも「多様性」という言葉が浸透して白人のキャラクターをあえて黒人にしてリメイクしたり美しい人をそうでない人に変えたりしている。
多様性はもちろん大事だが、何かズレているなと常に思っていた。
わたしは本作こそ究極の多様性であり究極の平和を願う作品であり究極の美しさだと思う。
今、ロシアとウクライナで戦争が起き、中東やアフリカでは常に紛争が絶えない。
それらの国々にも囚われた捕虜がいて捕らえた人がいる。
彼らの中にもセリアズがいて、いがみ合う人々が思想や宗教や価値観を変えて混ざり合うことを願った。
余談だが、若き内藤剛志さんが出ていて初々しかった。
そして改めて坂本龍一教授への追悼の念を送りたい。