パイルD3

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のパイルD3のレビュー・感想・評価

4.0
「オッペンハイマー」で、アインシュタインを演じていたのはトム•コンティ、イギリス出身の舞台俳優。
クリストファー•ノーラン監督のお気に入りで、「ダークナイト•ライジング」以来2度目の出演になる。
ノーラン監督がコンティを知った映画がリスペクトしている「戦場のメリークリスマス」。
その原題「MerryChristmas,Mr.Lawrence」
のタイトルロール、ローレンスを演じていて、人なつこい笑顔がとても印象的だ。

対する、デヴィッド•ボウイ、タケシ、坂本龍一、他にも内田裕也、ジョニー大倉、三上寛といった本業が俳優でない方々は、大島渚監督が“殺気を感じる顔“を選んだと言っているように絵面が独特だ。

「戦場のメリークリスマス」は坂本龍一の音楽と共に、大島渚映画では世界で大ヒットした最も有名な作品。
原作は日本人ではなく、イギリスのローレンス•ヴァン•デル•ポスト卿のジャワでの捕虜経験から書かれた2つの小説をベースにしているようだ


【戦場のメリークリスマス】

1942年のジャワ島を舞台に、連合軍が日本に降伏し、捕虜たちが収容所に送り込まれているところから、1945年に日本が降伏し、終戦後軍人たちが戦犯として裁かれるところまでの物語。

任務遂行のためには非道な行為も辞さないハラ軍曹(タケシ)と、多少日本語がわかるローレンス(トム•コンティ)の間にわずかな情けが生まれていくドラマを中心に、収容所長(坂本龍一)や、反抗的な捕虜(デヴィッド•ボウイ)ら、周囲の人物たちの行動を描く。


★既にあらゆる角度から分析され、語られている作品なので、あえてここでは監督のセクシュアリティ表現や、戦争体験との関わり合いのことなどを。

《①大島映画のBL感》
大島渚監督と言えば、LGBTQの中でGについての描写を映画の中で幾度か取り上げている人で、本作や新撰組を題材にした「御法度」は具体的に意図されたシーンが登場する。

ここでは、冒頭で朝鮮人軍属がオランダ人捕虜への男色行為がバレて体罰を受けるくだりから既にGをとりあげているが、最も有名なのは、突然歩み寄ってきたデヴィッド•ボウイが、日本刀を振りかざす坂本龍一の頬にキスして、坂本龍一がヘナヘナと倒れ込むシーン。

今ひとつ鈍感な私は、何故倒れ込んだのかがわからないままなのだが、本作については、監督の言葉を要約すると…

「男が男に惹かれるとはどういうことかを描きたかったんです。ホモセクシュアルの感情というのはよく分かりますし、肉体関係を伴わなければ自分の中にもあるものです」

と、まあ、わかったようでわからない言葉ではありますが、そんな感情を映画の中に平然と放出する監督でした。

《②大島渚の戦争体験》
この戦前•戦後の日本の変容や、戦時下でのハラキリをしっかり描き込んでいるのは、大島監督の戦争体験によるところが大きく、敗戦が濃厚になった当時の日本では、なんと学校で切腹の練習をやらされたらしい。

今から思えばあり得ない話だが、降伏は絶対しない、服従するなら切腹しろ!という教えだった。
ところが、降伏した後、占領軍が一気に入り込んでくると、国が言っていることがコロッと変わった…
“我が日本軍の戦争は間違っていました。アメリカ、イギリスは正しい、我々はもう2度と戦争はやりません“
という、切腹の練習をやらされていた身からすれば、この豹変ぶりは情けないどころじゃない、卑屈なまでの方向転換を推進し始め、忖度まみれのメディアを使って流布する国家が全く信用出来なくなったという。
国家権力のいい加減さがあまりにもはっきりと透けて見えたのだ。

この経験をどうしても取り入れたかったのは、いくつかの切腹シーンのリアリティや、
理不尽な行為を繰り返しながら闊歩していた軍人連中は戦犯として処刑されたという表現からもわかる。

ローレンス中佐が日本軍のあり方に対して、
慈しみの言葉を吐く
「日本人は焦っていた
1人では何も出来ず、集団で発狂した」

同時に、大島監督の当時の国家に対する怒りもこのセリフに凝縮されている気がする
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