ワンコ

オートクチュールのワンコのレビュー・感想・評価

オートクチュール(2021年製作の映画)
4.1
【高級仕立服の裏側】

オートクチュールは、言わずと知れた高級仕立服や、それを提供するブランドのことだが、前に、スーツが一着、”ン”百万円と聞いたことがある。

たぶん、これを支払える人は世界には沢山いるのだと思うが、カネにモノを言わせてオーダーしようとしても、取り合ってもらえないのがオチなのだそうだ。

この映画のDiorの工房を見ても少人数であることは分かるし、スーツよりも圧倒的にドレスに重きを置いているのも理解できる。
そして、なんと言ってもお得意さんの世界で、一見さんお断りなのだ。

もし、そんな風に金にモノを言わせるような態度のお客さんが来店したら、丁重にプレタポルテに通されるのだろう。

というか、そもそも、普段からDiorのプレタポルテのお買い物をする人たちは、そんなことは常識中の常識で、非常識なお客さんは、そもそもいないのだと思う。

だが、この作品を観て、技術とはそもそもお金ではないのだと、完璧に近い縫製や品質は誇りなのだと改めて思ったし、それは、世界共通の価値観なのかもしれないと感じた。
日本の着物も芸術として認められているものは多いし、デザインを作品として残す緻密な作業や工夫、そして、弛まぬ努力や忍耐は大変なものだと思う。

この映画のストーリーは、そんな誇りと家族との関係のジレンマもサイドストーリーとして描かれているが、展開はご想像の通りだと思う。

ところで、オートクチュールのほとんどは大赤字なのだそうだ。
だから、お針子さんも世代交代させるんだろうななんて考えてしまった。

途中、香水をシュッシュッする場面があるが、赤字であってもオートクチュールが全体としてのブランド価値を高めて、プレタポルテというより、香水など”消費財”の販売につながることを重要視しているのだそうだ。

まあ、当然、ドレスは一着で、”ン”百万円では済まないだろうし、すごい世界であることは間違いない。

お針子さんに拍手だ。

最後に観たドレス達は妖精のようだった。

ところで、日本でオートクチュールでドレスを仕立てた記録がある最も著名な方は、香淳皇后で、昭和天皇と渡米して晩餐会にご出席された際に身につけられたものらしい。

今は、高級ブランドはコングロマリット化して、利益重視のためオートクチュールを止めるところも多いらしいが、CHANELや Diorには続けて欲しいと思う。

この作品は、オートクチュールと、オートクチュールに関わる人達へのオマージュだ。
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