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オートクチュールのSPNminacoのレビュー・感想・評価

オートクチュール(2021年製作の映画)
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老いたベテランが(扱いが面倒な)若者の才能を発掘し鍛える、というのは『ハスラー2』とかよくあるパターン。年齢や環境の異なる2人が出会って絆が生まれるというのも、同じフランス映画『最強のふたり』を思い出す。但し、これはほぼ女性同士の話。また、オートクチュールといっても『ミセス・ハリス、パリへ行く』みたいな華やかさはない。
将来の選択肢が乏しく母親の世話に翻弄されて人生投げやりなジャドを、仕事一筋で誇り高いが孤独な人生を送るエステルがディオールの縫い子にスカウト。一見はいわゆるブルジョワと下層移民だが、そう単純じゃないところがいい。エステルはユダヤ系で電車通勤、ジャドの母は白人、工房にはジャドと同じバンリュー団地出身の白人がいて、アラブ系の同僚男性も実はブルジョワ2世。やれフランス人だ移民だとの定義が如何に薄っぺらで無意味なことか(しかも差別される側も日常的に差別してるのがサラッと挟まれたりする)。更にはトランス女性の友人も登場し、お互いが縛られた属性から外へ踏み出していくのが一つのテーマ。
もう一つは、エステルが拘る美意識の件だ。金目のものしか興味がなかったジャドに、「美しいもの、上質なものを作るのが真の豊かさ」だと教育するのはフェアじゃないと感じたのだが、むしろ美の定義を拡張するのはエステルだった。手塩にかけたオートクチュールや薔薇と同じくらい、誰かに手を差し伸べること、独りじゃないことを美しいと知る。確かに、団地から一斉に祝福で迎えられるあのショットは美しかった。
リナ・クードリは『パピチャ 未来へのランウェイ』に続いてファッションもの、気が強くて可愛くて輝いてる。縫製職人の作業も色々面白い。とはいえ、母娘問題、親友の件、恋愛、辞める辞めないとか、それ自体メインになりそうなエピソードが盛り沢山すぎたかも。オープニングや選曲が陳腐なTVドラマみたいなのも気になった。
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