建野友保

アメリカン・ユートピアの建野友保のレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.3
ブロードウェイの1000人足らずの小屋で2019年10月から2020年2月にかけて上演されたデヴィッド・バーン作のミュージカル「アメリカン・ユートピア」をスパイク・リー監督が活写した記録映画。
元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが2018年にリリースした同名の音楽アルバムは、ディストピアとなったアメリカ(トランプ政権下のアメリカ)へのシニカルさを覗かせた作風でしたが、これを下敷きにしつつ、過去の作品からも選曲、彼を含めた12人の生演奏・生歌で見事なショーを見せてくれます。まずショーそのものの演出が完璧で、たぶん複数日にわたって違ったアングルから撮影した素材を使ったのだと思いますが、見たい角度、見たいショットがパシッと決まっていて、全く飽きることがありません。スパイク・リー自身がこのショーに惚れ込み、スクリーンならではの同時体験ができるように工夫したことが、よく分かります。
移民経験をもつ人(デヴィッド・バーン自身もそう)を含んだ多様なミュージシャンが秩序だったステージワークを見せつつ、個人技もいかんなく発揮し、ユーモアを交えながら投票率の少なさを可視化して見せたりもする。ステージそのものが理想的な政治体制、これに呼応して踊り出す観客席が国民という構図になっているようにも思え、このショー(フィルム)自体が、あるべきアメリカの姿=ユートピアを暗示しているように思えてきたのは、鑑賞後の帰り道でのこと。
コロナの影響で、映画館で観られるのは日本のみ、とも言われています。この幸運をぜひ体験していただきたいと思います。
建野友保

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