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アクアマン/失われた王国のTakuのレビュー・感想・評価

アクアマン/失われた王国(2023年製作の映画)
4.0
 本国での前評判があまりに悪かったので心して観たが案外面白かった(逆に前評判が異常に良い映画は蓋を開けてみたら…というケースもよく見る)。アーサーとオームのブラザーフッドものとして良かったし、アクションは前作に比べると良くも悪くも普通(前作のアクションはイケているが、カメラワークが前景化されすぎている気も個人的にはする)だったが、一定以上の楽しさは担保されていた。俳優だと、パトリック・ウィルソンと『エクスペンダブルズ』でのガンナー感が少し増したドルフ・ラングレンが特に良かった。
 色々と問題はある。重要な場面なのに溜めが殆どない編集や、ややとっ散らかった脚本、中心であるはずのアーサーの物語も後景化していた。全体的に製作上の問題がチラチラ見え隠れしていた。
 自分は観ながら『スーパーマンⅣ』を思い出していた。『スーパーマンⅣ』は今までと製作体制が変わり、低予算で作られた。出来は非常にチープなものだったが、クリストファー・リーヴの意向で反核のメッセージが強く示されている。
 軍拡競争の危機が迫るなか、国連で核廃絶のスピーチをしたスーパーマンは、巨大な網で世界中の核兵器をまとめて太陽に棄てる。これまたチープな展開だが、こういう理想論的描写はヒーロー映画としての一解だと思うので嫌いになれない。因みに、ここで素晴らしいのはスーパーマンがこれをするに至った経緯が子供からの手紙というところだ。軍拡競争のニュースを見て「私たちに何か出来ることはあるか?」と問う教師。教室には1人窓の外を眺める少年がいる。手元のノートには「赤と青のスーツを着たマントのヒーロー」の絵が描かれている。彼は「スーパーマンに手紙を書く」と言う。デイリー・プラネットに送られた手紙には、「そんなの夢物語だと友達は言います。でもあなたなら地球を救えると信じています」と書かれていた。作品全体は残念な作りだが、ここに関しては本当に素晴らしい。これこそ第1作目の『スーパーマン』がコミックスのページから始まったことに繋がる、ヒーロー映画の理想的な流れである。
 『アクアマン/失われた王国』は市井の人であるシン博士を通じてヒーローとは精神性に由来することを示し(本当はアクアマン自体がもっとこれを示して欲しかったが)、複数のルーツを持ち、人々に善を呼びかける「アクアマン 」をシン博士の瞳を通して見つめる。上層部によって酷く振り回されたDCEUのラストで、そういうヒーロー映画としてのメッセージを愚直に(唐突に)伝えようとした本作には、『スーパーマンⅣ』を思い出さずにはいられなかった。
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