垂直落下式サミング

アクアマン/失われた王国の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

アクアマン/失われた王国(2023年製作の映画)
4.2
いきなり登場、荒ぶる海んちゅアクアマン。コンテナ船だかタンカーみたいなのの乗組員が、嵐のなか海賊に襲われてるところに颯爽と駆けつけるのだけど、出だしからすっげえ雑っい。ドガーン、バシャーン、おりゃあー!みたいな…。
一作目の登場シーンのような、デデデーン♪というテーマ曲とともに役者が見得を切って出てくるエレガントな溜めがない。えー、これ大丈夫かなあと思ったら、ベイビーにパパの最強な武勇伝を語り伝えるバカ親父という構図だった。えへへ、育児オヤジでしたか。
前作から5年も空いたわけだから、不意に彼の生活の変化と人間的成長みたいな部分をみせられると、ホロッときてしまう。
最初のアクアマンが公開されたとき、僕はといえば、どうやって生きればいいのかわからなくて、若さを浪費してた頃だったから、作品内の出来事は実社会とおなじタイムライン上に存在しているということを突きつけて来られると、よりいっそう自分事として受け止めてしまうんだよなぁ…。しみじみ。
かつてのやさぐれちゃらんぽらんだったアーサーはもういなくて、今はコイツも仕事(王様)してて、家族(水陸二重生活)があって…と、そんな様変わりした彼の生活の様子をみていると、疎遠になった友達から元気の便りが来たような不思議な感覚に…。
でも、ダメ人間の性根はしっかり抜けきってないのがいい。床にオモチャが散乱した海辺の家には、めっちゃギターあるし、ガレージにはしっかりバイクもあって、冷蔵庫にはビールと哺乳瓶。
パパもじいじもソファーにドシンっ。コイツらぜったい自炊してねえな!きっと主食はピザとバーガーなんでしょう、バカ親子がっ!二代にわたって奥さんお姫様だから、うるさく言わないんだろうね(うらやましい)
この前、一作目を観返してて、公開当時自分が書いたレビューも読み返してみたんだけど、我ながらなかなか目の付け所がいいなと感心した。
ほんと、ニートにしてはキレイにまとまって読みやすい文を書いたもんだよなぁ…。推考にガッツリ時間とれるくらい持て余してたから、当然といえば当然かぁ…。お恥ずかしい。
そこで珍しく劇伴に言及してて、バカのロックチューンから荘厳なオーケストラに帰結する英雄譚だってのは、まさしくですわ。今作は、ステッペンウルフ!からのステッペンウルフ!バカがよっ。
ギターとバイクと三ツ又槍は、男の三種の神器。家庭を持ってるのに、これは捨てられないんだもんって、暗にそういう関白宣言を全力で肯定しているもんだから、この時点で女子ウケ要素は魚に食わせろと海洋投棄されてしまっているワケですね。
ホント、オトコの映画だったな。一応はママもばあばもいるのに、ふたりとも家庭人らしい素振りをほとんどみせないんだもんな。このご時世、女性キャラクターを完全に置物化する潔さは好感の持てるところ。
女が排除された世界で展開するのは、限りなく健全なブロマンス未満のオトコノコなセカイ。弟のオームを脱獄させて一緒に冒険していくなかで、急速に仲直りする陽キャコミュニケーションがかなり好き。
兄弟でジャングル大冒険!地上を知らない弟に、キャストアウェイだのロキだのアズカバンだのと言うのは、ホントに無神経だと思うけど、まったく悪気ない様子で言ってんだもんな。清く尊い…。
悪役・ブラックマンタとの落とし前のつけ方も、僕は大いに納得できました。差しのべられた手を取らずに落ちていく彼をみて、一瞬だけ悲しげな表情をして、踵を返す背中には優しさが溢れていた。
ふたりの因縁は、まったくもって「解消」や「解決」していないけれど、こういうかたちの「決着」もあり得るだろう。オマエがいまだこの世の空気を吸っていることが許せないと、そんな憎しみと殺意を一生涯向けられ続けることでしか成り立たない関係もある。
なんならアーサー自身も、いちおう助けようとはするけれど、コイツは俺の手を取らないだろうなって、最初からわかってる気がした。
でも、わかってながら、みすみす見殺しにすることはできない。アクアマンは、正義の味方の最強なパパだから。息子の生まれてきた世界は、いいものでなければならないのだから。王であり、父親であり、戦士でもある。アーサーの人間的な部分がよくわかる。
一方、ブラックマンタのほうは、因縁の相手との決闘でコテンパンに負けた上、魂の高潔さをみせつけられ、まして命まで救われたとあっては、仇敵として立つ瀬がない。
だから、アーサーは、敵に情けをかけられた男の惨めさを慮って、悪党なりの仁義に準じる好敵手の意思を尊重する。こういう価値観が好きなんよな。まったく性質の違うふたりが、意図せずに通じあっちゃってるの。みくびるな。いやいや、アーサーは、わかってるよ。誰よりも、アイツのことわかってたと思う。
本チャンの敵はビミョー。一応、温暖化に警鐘を鳴らすエコメッセージを背負ってるけど、それは前からそうだったし…。結局は復活しなかったこともあって、コイツらが解き放たれて暴れると地球にどんな災厄をもたらすのか、具体的なイメージとしてみせてくんないから、ただ漠然と悪いやつなのねって、こっちが設定の余白を補完するしかない。
「ふはははっ!ワシが復活しちゃったら世界は終わりじゃあ!」みたいなボスっぽいやつが、心の不安定なブラックマンタとか、闇を抱えた弟とかを操ってくるんだけど、あの魔術はどういう理屈なのでしょうか?
最後も変。アクアマンが、三ツ又槍を続けざまにおなじ場所にドンピシャで二連射したら、なんか一投目の柄の部分にクリティカルヒットして、ビキビキっとひび割れたから勝てたけど、結局どういう理屈で復活阻止されたのか、よくわかんなかったもん。数千年の呪い解除は、あんな感じでよかったの?
アーサーが、二本とも一人で投げちゃうのもよくない。なんか、オームとアーサーが本当の意味で通じあって、協力したおかげで勝てたみたいなほうが、物語として締まりがいい気がする。勝負を決めるのは、兄弟の二段攻撃のほうがよかったのでは?
しかし、初代アトランティス王も、詰めが甘いですよ。悪者を封印するなら、賢しい小手先のサイドエフェクトとかも込みで、しっかり縛っといて欲しかったですね。まったく人騒がせな。