換気

AGANAI 地下鉄サリン事件と私の換気のレビュー・感想・評価

-
荒木浩という人をひたすら映し続ける114分。語りが凝縮されていた。

とことん誠実な人だと思った。佇まい、身のこなし、受け答え、慎重に言葉を選びながら話す様、間、内面の表現の仕方、そういう荒木氏のコミュニケーション方法には好感がもてた。


子どものころ自分で買った筆箱、
大学3年の時に弟が病気で足を切断するかもしれなくなったときに抱いた感情、
幼稚園の頃に入院したこと、
出家する日の朝の家族とのやりとり、
幼き頃の祖父母との思い出、
アルバイトしていたセブンイレブン、
文化祭での麻原彰晃との出会い。


人生のいくつかのきっかけが現世への決別と出家を決意させたと示唆する語り、
それはまったく理解不能なことではなく、その時の荒木氏の心情が生々しく伝わってくるようだった。

むしろ鋭敏で独特なその感受性ゆえに、人よりも何かを多く悟ってきたのではないか。

そこでの悟りに向き合い、今も向き合い 続けるのかなあ。

自分の罪ではないけれど生涯その責任を負い続けること、信仰することがこんなに困難な境遇にあっても信仰をつづけるということ、
貫徹する想いの「つよさ」に人としての「つよさ」を感じる。


一方で、監督の「家族が大切なんだったら大切にしたらいいじゃない」という言葉にもあったように、信仰を重んじるがゆえにないがしろにすることもあるだろうし、そのジレンマに荒木氏自身陥るということはないのかなあと思った。


例えば自分で自分に心理的な暗示をかけてしまっているということはないのかな。
チック症や緘黙症のように、自分の意志ではどうしようもない方向に心が向いて「ロック」がかかってしまうことがある。
そんな時は自分ではどうしようもなく、脱するには他者からの働きかけや外発的なきっかけが要る。
監督が「明日両親に会いに行ってください」と荒木氏に言ったところ。
荒木氏は悩んだし、私も強引だなと思ったけど、今思えばあのとき強引に他者がきっかけをくれたこと、もしかすると荒木氏にとってはひとつ心のロックが外れるきっかけになったのではないか。
真実はわからないけど、
その可能性について少し思いが至った。
換気

換気