MasaichiYaguchi

映画検閲のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

映画検閲(2021年製作の映画)
3.5
1980年代のイギリスを舞台に、当時「ビデオ・ナスティ」と呼ばれた、低俗・暴力的との烙印を押された作品に対する検閲を題材に描いた心理ホラーは、リアルとフィクションの狭間で混乱していく主人公の異常心理をシュールな幻想性を交えて浮き彫りにする。
ビデオ・ナスティに対する論争が巻き起こっていた1980年代のイギリス、映画検閲官のイーニッドは、それが正しいことだと信じ、暴力的な映画の過激なシーンを容赦なくカットする毎日を送っている。
その揺るぎない姿勢で周囲から「リトル・ミス・パーフェクト」と呼ばれている彼女だったが、或る時、とあるベテラン監督の旧作ホラー映画に登場するヒロインが、幼い頃に行方不明になり、法的には死亡が認められた妹ニーナに似ていることに気が付く。
長編映画はこれが初監督となるプラノ・ベイリー=ボンドが監督・脚本を務めた本作では、主人公イーニッド役は「聖なる証」「キャッシュトラック」などにも出演しているニアフ・アルガーが務めている。
劇中の台詞で「人々は私が恐怖を作り出していると思っているが、恐怖はすでに存在しているのだ。我々の中に」というのがあり、恐怖の根源は人の心の中にあり、ホラー映画はそれを表出させる触媒にすぎないと指摘している。
過去の或る出来事によるトラウマに苦しむイーニッドは、正にこの台詞そのままに、為す術もなくホラーの虚構に呑み込まれ、破滅的な迷宮を彷徨うことになる。