これは面白い。ロメールだと知らなくてもかなり面白い。のちの若い女と男がくっついたり離れたりする(若干変態みのある)瑞々しいヴァカンス映画を撮ったロメールとは思えない、劇的な寓話。
浅はかでどこまでもプライドと見栄がつきまとう男は、寝る場所もなくなり炎天下のパリをただただ歩き回る。腹も靴も減るし歩かなきゃいいのにと思うが、歩き回る。不穏なバイオリン曲が流れ続け、喧騒のなかに彼の靴の足音がずっとずっと聴こえてくる。(ヨーロッパの石畳は歩いてると足痛くなるんだよな)歩き回るなかですれ違い隣り合う他人はまるで男が存在しないかのように無関係で、みな寝食に足りて恋人も友人も家族もいてぺちゃくちゃ喋ったりキスしたりしてる。それが男には喧しい。時々即興的な手持ちカメラで街の人々を伴って活き活きと撮られたり、かと思えばセーヌ川の波のゆらめきとそれを見る男の瞳の光が切り返されたりする。
男を助けた浮浪者とのシーンで急に喜劇みを帯びる。嫌でもルノワール『素晴らしき放浪者』『牝犬』を思い出すし、浮浪者は男を罵りながらも仲間として接するが、男は達観したわけでもなく、どこまでもプライドを捨てきれない。男にとってはハッピーエンドとなるが、浮浪者にとって庇護の対象であった男は自分が金を得られるとわかった途端に、浮浪者のことを慮る様子も無く、オープニングの浅はかな彼の行動を反復する。このロメールの処女作は連作「六つの教訓物語」よりもよほど教訓めいた寓話であった。
ゴダールがレコードプレイヤーで何度も同じフレーズをかけ続けるのがいかにもゴダールだった。