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モンタナの目撃者のsomaddesignのレビュー・感想・評価

モンタナの目撃者(2021年製作の映画)
5.0
目撃者モノにハズレなし
悪役チームの前日譚が見てみたい

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過去に悲惨な事故から少年たちを守れなかったことで心に大きなトラウマを抱える森林消防隊員ハンナ。ある日の勤務中、目の前で父親を暗殺者に殺された少年コナーと出会う。コナーは父親が命懸けで守り抜いた秘密を握る唯一の生存者であるため、暗殺者に追われる身となっていた。

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「ボーダーライン」シリーズの脚本、「ウインドリバー」の監督・脚本。近年一番注目度の高い(自分比)映画人:テイラー・シェリダンの最新作。

1970年生まれのテイラー・シェリダン。70年生まれの映画人には名匠が多くて、クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソン、M・ナイト・シャマラン……並べてみたら厄介でトリッキーな映画撮る人ばっかりだな。他にもマライア・キャリーやイ・ビョンホン、パトリック・ハーランからアジャコング、羽生善治先生、中川家・剛も70年生まれの同級生。振り幅すげーな。
(ちなみに一つ上の69年生まれにはウェス・アンダーソン、スパイク・ジョーンズ、ノア・バームバックガイルがいる)


大好きなテイラー・シェリダン作品とあって、知らず知らずに期待値を上げすぎたのかも。観終わった後の最初の感想は「極めてふつう」。
面白くないわけじゃないけど、面白さが突き抜けてくれない。隔靴掻痒、予告編で勝手に期待してしまったアクション映画的痛快映画と思ったら、テイラー・シェリダンらしい人間の正邪をえぐるドラマだった。

年に2本は作られるという「目撃者モノ」。中でも「子供目撃者モノ」はどうしたって面白くなりがち。
原題は「Those who wish me dead」。マイクル・コリータのベストセラー小説を映画化。マイクル・コリータ自身も今作にテイラー・シェリダン、チャールズ・リーヴィットと共に脚本参加。絶望的な山火事の惨状と、冷酷な殺し屋に終われるディザスターパニックとクライムサスペンスの合わせ技。

アンジェリーナ・ジョリーといえば数々のアクション映画で無敵な女性を演じてたけど、今作ではあくまで普通の人。特殊なスキルはないし、ズバ抜けた運動神経もない。精神的にも過去のトラウマから抜け出せないでいる。そのせいか自傷行為じみた無茶なチャレンジしてみたり、食事より酒ばかり呑んでいる。(役作りだろうけど痩せすぎてて心配になる)
ごくごく普通の人が、今自分にできること精一杯で困難に対峙する。そこに煌めく崇高さが今作のキモかも。


暗殺のプロ二人組がまた素晴らしい。エイダン・ギレンとニコラス・ホルトの凸凹コンビは、普段ならスマートに仕事をこなし颯爽と去って行く。完全に仕事としてプロ意識高く技術を発揮してるだけ感が怖い。自分のしてる事への疑問や、罪悪感が微塵もない。人の心を折って、正確な情報を引き出すことに慣れてる……が、オーウェンやハンナら普通の人々の思わぬ反撃に合ってしまう。予想外の抵抗にミスを重ね、どんどん追い詰められていくのが面白い。パワハラ上司の無茶振りと人手の足りない現状に板挟みになりながら、的確に仕事を進めてしまう有能さ。追い詰められてるからこその冷酷さ。エイダン・ギレンの一見にこやかで人の懐に忍び込む雰囲気もいいし、ニコラス・ホルトの整った顔と非道のギャップも良かった。二人とも綺麗な青い目が素敵❤️(スピンオフできないかしら?)

ハンナの元カレで保安官のイーサン。演じたジョン・バーンサルは「ボーダーライン」「ウィンド・リバー」で重要な役どころを任されるテイラー・シェリダンの信頼厚い。一見おっかない風貌で無骨な佇まいの奥に、不器用な優しさが透けてるのがいい。過去作同様、今作でも酷い目にあってるけど、選択と行動がいちいち崇高。

主要キャラ以上に全く予想外のキャラが大活躍。あの人の活躍がなければ、ハンナやコナーはどうなったことかと思う。それはそれで最高なんだけど、全体からするとブレた印象。主に戦うのは女性ばかりだけど、ハンナとコナーの関係性が母性による庇護ってより年の離れた相棒風。安直に母性/父性に目覚めたりしない、あくまで大人が庇護者として当然のように子供を守ろうする描き方。なんならハンナって過剰にホモソでマッチョなチームのボスで、必要以上に男っぽく振舞ってる風。過去のトラウマを払拭すべくあえてそう振る舞ってるのか、元来そういう性格の人なのか判然としないが、かなりマチズモな人として描かれてる。心を閉ざしてるせいか、生きることにも食べることにも無頓着で、酒ばっかり飲む一方、すごく不味そうな携帯食と行動食がわりのキャンディーくらいしか身近にない。山の中だからっつーのもあるだろうけど、もうちょっと食べて欲しい。

「ウインド・リバー」と同様、追い詰めた側が追い詰めた先(土地)を呪って死んで行く。それに対する「この土地もお前が嫌いだよ」って捨て台詞カッコいい。ままならない自然を相手にしてる人たち 対 力尽くで何事もコントロールしてきた勢力の戦いでもあるのか。

フード描写はハンナが差し出すすごく不味そうな携帯食と、劇中のダイナーで保安官が食べてるステーキ。あんまり美味しそうな食べ物が出てこないのも印象的で、自然風景だけじゃなく、やっぱちょっと特異な環境なんだなって感じた。あとやっぱり「正体不明者はモノを食わない」「悪役はいつも食卓を襲う」の法則が決まってた。

印象的だけどよく意味が分からなかったシーンが、序盤の道端シーン。コナーが道端の小さなバッタと戯れていると、それを見守る野良馬。一人と一匹と一頭が触れ合うシーン。それぞれコナーとハンナ、孤独な魂の邂逅を暗示してるのかもしれないけど、演出が叙情的すぎてよく分からんかった。


56本目
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