「人の好きは、人を幸せにしてなんぼでしょうが!」
【撮影】9
【演出】9
【脚本】7(期待を込めて)
【音楽】9
【思想】8
2022年最初のレヴュになります
本年もよろしくお願いします
本作品
舞台劇の良いところと
映画のよいところが
戦略的に融合された
匠の技によるもの
小林賢太郎のソロ舞台作品のような
東京03のコントのような
アンジャッシュのコントのような
モノローグのようなディアローグによって織りなされる
多弁で静かで不思議な空間
文学的それもロシア文学的な作品
と思ったら
ドストエフスキイの『カラマーゾフの兄弟』からの影響があると
監督本人がインタビュで応えてました
あとは九鬼周造の『偶然性の問題』
本映画は
偶然をテーマにしていても
偶然性そのものを扱うわけではないのですが
①『魔法(よりもっと不確か)』
言葉は呪術でもあって
それがとりわけ顕著に現れるのが恋愛
恋愛って命がけなんです
呪うか呪われるか
生きるか死ぬか
恋愛のネガティブな側面も
学生さんたちに授業中
きちんと伝えています(笑)
本短編
結論が2パターン用意されていますが
いずれも地獄だと思います
1パターン目が終わり
古川琴音さんにカメラがフォーカスされ
そのままカットせずに2パターン目に
役者を追い込む鬼演出
役者稼業
メンタルのバランスを取るの大変そうです
②『扉は開けたままで』
大学での個人研究室の扉
学生対応時は開けることが推奨されています
誠実な人格の研究者はきちんと開けています
閉じているのは
そもそも学生対応をしたくない人(人間嫌い)か
学生にセクハラやアカハラをする人です
ご注意ください
さて『扉は開けたままで』
蜷川演出に刃向かうかのような
低い声での棒読み会話
演技巧者だから成功したのでしょう
本短編集の中で最も文学的な会話がなされるにもかかわらず
最もコント的な作品
印象に残った台詞(渋川清彦)
「自分の書いたテクストを、声に出して読んでもらうのは、恍惚となる体験でした。」
納得です
エロに言葉は重要な役割を演じます
③『もう一度』
表象となった知ではなく
その手前で行為と結びついている実践知
こうした知を思い出すには
行為を反復するとよいです
他者の顔や名前も
日々の具体的な場面で出合います
人の顔や名前が憶えられない人は
その人と接した空間に行き
その時の行動をするとよいです
相手のことを思い(想像し)
その人物を演じてあげる
優しい作品です
そもそも人は
その人その人に合わせて
自分を演じているのかもしれません
(平野啓一郎の「分人」)
3つの短編を通じて
ショパンのピアノソナタが
通奏低音のように流れます
本好きなすべての人に
本作品をオススメします